月に吼えるもの 神末家綺談6
淡い光が降ってくる。満月だった。随分大きい。かすれて殆ど見えない目で、少年は夜空を見上げていた。
雨はもう降らないのだ。それがわかった。
この旱魃は天からの罰である。あめふらしが雨を乞うたところで、祈りが聞き届けられるはずもない。
(・・・それでもわたしは絶望していない)
従者が次々と死に絶えていっても。
己の手足が乾き、飢えによりもう身体中が痛みさえ知覚できなくなっても。
(必ず生きて、みずはめのもとへ帰る・・・)
その願いだけが、少年を生かし、この場に座らせ続けていた。
(生まれて初めて、自分のために祈る)
どうか雨を。後慈悲を。生きてここを出て、もう一度妹に会うために。
手のひらの上の飾り櫛が、生きよと訴えてくる。おまえの生は、おまえのものだと。
(みずはめ・・・)
妹の、優しい声をまだ思い出せる。
妹の、美しい瞳も覚えている。
まだ死ねない。必ず生きて――
「・・・?」
ぼうっと半ば昏睡状態の耳が、声を拾う。森の入り口から近づいてくる、冒涜的な足音。複数・・・。
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白