鉄の馬で日本を駆けろ!
七月二五日 花の都大東京
寝にくい夜が開けた。初めての野宿。疲れたら人間は寝る。たとえどんなところでも――。
起きた時には東の空は白々としていた。街はまだ起きておらず、周囲は静寂に包まれている。
バイクとその周囲を見た。野宿していた間誰にも近付かなかったようだ。安心して、かつ周囲には少し気を使いつつエンジンをかけて相棒の目を覚まさせる。相棒は待ってましたと言わんばかりに調子よくエンジンを回す。運転手はまだ眠さが残るが、こいつは大丈夫そうなので頼もしい。
「さぁ、行こうか!」
バイクに跨がりタンクをポンと叩いてスロットルをゆっくりと開けて、国道1号線を東に進路をとった。箱根の山を越えれば世界中の人間が知っている街がある。そう、東京だ――。
箱根の関所といえば「入鉄砲に出女」とも言われる天下の険と聞いていたが、早朝すぎて誰もおらずにフリーパス。300年前なら止められただろうか。
それから毎年正月になれば大賑わいするこの沿線。そういや箱根駅伝で学生たちが一気に駆け抜ける道だ、ここ。ただし今は夏、そして早朝。車の通りはほとんどなくすんなり横浜市へ突入した。
開店前の中華街をちょっと散策して山下公園で休憩。午前中には歌にもある、
「死にたいくらいに憧れた、花の都大東京」
に突入、この時間あたりから予想していた大渋滞に巻き込まれ、体力を消耗させる――。
首都圏突入、土地には明るくないので適当に走っていると目の前には東京タワーが。当時の日本最高峰建築物だ。それを通り抜け、上野のバイク屋で相棒を止めさせてもらう。というのも、上野はバイク関連の店がずらりと並んでいるのは雑誌で知ってたからだ。身軽になった私はデイパック一つ持って東京を散策する。まさに気分はおのぼりさんだ。
JRの「都内周遊券」を買って上野を出発、まずは水道橋の東京ドーム。そして新宿、それから渋谷、原宿にも寄って最後は浅草へ。東京はどこも有名なところなので、さすがに半日じゃ回りきらない。あ、そうそう。渋谷の銀行で昨日のスピード違反の反則金もちゃんと納付しました……。
それでも東京という世界中の人間が知っている大都市の一部を見られた事は意義があった。家庭の事情で首都圏の大学に行きたくても行けなかったが、この街を目標に努力する人があまたいることの意味が少し分かったような気がする――。
夕方、陽がかげり走りやすい時間になる頃に上野に戻り単車を回収。それからちょっと寄り道して埼玉県三郷市に入り、さらに寄り道して千葉県柏市を通って千葉にも入県を果たす。今回の旅の目標は
47全都道府県上陸
なのだ。埼玉と千葉にもゆっくり立ち寄りたかったけどごめんなさい、通過するだけでした。いつかはゆっくりと回って見たい、それを次への宿題として常磐道の守谷SAで今日も野宿、あー、今日も暑かった……。
* * *
本日到達した都道府県。
神奈川、東京、埼玉、千葉、茨城
(12/47)
作品名:鉄の馬で日本を駆けろ! 作家名:八馬八朔