鉄の馬で日本を駆けろ!
七月二四日 イ・キ・ナ・リ・!
友人宅を後にして、午前7時に豊橋を発つ。静岡県まではすぐそこだ。僕はすぐに国道1号線に入り、ただ東を目指した。最終目的地は静岡県東部の三島市、ここにも高校時分の友人が下宿している。
天候は晴れ、ただし朝が早いので気温はまだ上がる前だ。暑くなると消耗も大きくなるので早いうちに距離を稼いでおきたい。
快適なペースで東へ、小学生の頃教科書で見た登呂遺跡を見学、それから清水市に入り美保の松原で「天女の松」を見る。この松の向こうに見えるのが、ニッポン人なら一度は拝んでおきたい霊峰、富士山だ。こうして富士山を見るのは初めてだ。ここから見るそれはまさに絶景、そりゃ後に世界遺産になるよ。
快適なペース、これが直後に仇となった。天女の松を後に、せっかく来たのだから富士山の五号目まで行ってやろうと進路を取った直線道路で悲劇は起きた。あっという間だった。目の前に制服を着たお巡りさん、手にしているのは「止まれ」の旗……。
「何キロ出てました?」
「72キロ、ここ50規制ね」
言い訳はしない。自覚あるから――。二点の反則金12000円、ゲンナリだ。開始二日目でやられちまうとは……トホホ。まあ、昨日伊勢神宮で買ったお守りのお陰で赤切符にならなかった事を考えれば、この先安全に走れよ、まだまだ旅は始まったばっかりなんやからと良いようにものを考えて行こう出はないか。前向き発言、でも12000円の反則金は正直痛い。
切符と納付書をいただいて解放された私は気を取り直して富士山を目指す。山梨県方向から※「富士スバルライン」に乗って五号目まで行けるとのことなので、富士山の西側から山梨県に入り、当時一躍有名になってしまった上九一色村を通り抜ける。「あれ」を見に行こうと思ったけど、地元の人の事を考えて結局通りすぎるだけだった。
富士スバルラインに着いたのは昼下がり。通行料金を払ってバイクはおよそ20キロはあるという山道を標高2300メートルまで一気に駆け上る。上っている途中、視界を遮る霧に身の危険を感じながら到着。上った天空の町は七月の盛夏なのに肌寒い。さっき通り抜けた霧は、上から見ればわかるのだが霧ではなくて、雲だった。童謡「ふじの山」にあるように「頭を雲の上に出し」なのである。さすが富士山、日本一の山だ。
* * *
涼しさを体に帯びて体力を回復し下山。富士五湖の方(東側)を抜け、御殿場方面から友人が下宿している三島市に到着。
ここでもトラブル発生!
なんと、近所のコンビニでバイトをしている彼であるが、後々聞いて分かったことだがその日夜のバイトがドタキャンしたために、結局会うことができなかったのだ。この当時は携帯電話という21世紀の革命的通信手段などなく、彼がどこのコンビニでバイトしているかなんて知る由もない。コンビニだっていっぱいあるし――。
結局この日は近所の公園で野宿をすることになった。
公園の東屋にバイク乗り入れてベンチでコロン。取り敢えず雨風だけはしのげそう……。横になって目を閉じれば蚊の羽音が聞こえる、そもそも野宿なんて初めてだった。
「大丈夫かいな」
と自分に言いながら三島の暑い夜は更け行く――。
* * *
本日到達した都道府県。
静岡、山梨
(7/47)
※平成26年現在、夏期の富士スバルラインは通行規制がかかっているそうです。残念!
作品名:鉄の馬で日本を駆けろ! 作家名:八馬八朔