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鉄の馬で日本を駆けろ!

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   八月十四日 台風12号


 夏だというのに今朝は気温が上がらない。それもそのはず、昨日から分かっていることであるが、台風が近づいているのだ。野宿をしている身分であるので、ここにとどまろうが先を進もうが来るべきものから避けることは出来ない。そして、予定では明日の夕方には鹿児島港から沖縄行きのフェリーに乗る。
 そこで出した僕の回答は、
「嵐が来ても南へ進め」
だった。待っても同じだからとにかく進もう!
 今にして思えば、それはあまりに無謀な作戦だった――。

   * * *

 今回の旅の中で最大級の雨対策を取って相棒を南に走らせた。そして最初の暴風は走り出してすぐに襲ってきた――。
 熊本市を出て国道3号線、事前に台風を警戒しているのか走っている車もほとんどいない。叩きつけるような暴風で普通に走っても転んでしまいそうだ。そして横から降ってくる雨に視界を奪われる。当然スピードも上がるはずもなく、やっとの思いで立ち寄ったのは熊本の南にある水俣駅だった。
  
 ここで奇跡が起きた。道中ヤバイくらいに強かった風が止まっているのだ。雨も少ない。
「これは天が助けてくれたんだ」
日頃の行いに感謝、これは行けるぞと思い再び南を目指すと、さらに厳しい現実が待っていた!

 水俣にいた時はちょうど台風の目の下にいたからだったのだ。走り出してすぐに吹き戻しの風が僕に容赦なくぶつかってきた。雨で視界も聞かない風で止まっていられない、止まると転んでしまう。最大級の雨対策も効果が徐々になくなってきて最後は体もびしょ濡れになった。
 視界は相変わらずきかない。だけど事故の心配がない。というのも走る車がない。信号を見ても信号ですら故障してて光もしていない。僕は強行突破策をとったことを後悔した。これは冗談抜きに生命の危険さえ感じる!
「あかん、マジであかん」
 命からがらバイクは南へ、鹿児島県に突入、最初に見つけた道の駅、阿久根で緊急避難することにした。 

   * * *

「あー、助かった」
 ずぶ濡れで道の駅の休憩所に腰を掛けると心配そうにしてやって来たのは道の駅の人たち。
「大丈夫ですか?」
「まあ、何とか……」
「台風が過ぎるまで、ゆっくりしてていいですから」
食堂の一角をお借りして濡れた雨具などを干すことにした。台風はさらに猛威を奮う、その影響でお客はまばら。思えばこの日、道の駅が営業していることが奇跡だった。来ると分かっていた台風、ひょっとしたら今日は営業することができなかったかもしれかったという談も嘘ではない。本当に助かった。

 台風が過ぎて安全?に動けると判断できたのはそれから数時間後。空はまだ荒れ、雨はまだぱらついているが、南へ進むには問題が無さそうだ。テレビのニュースも一応保証している。
「ありがとうございました」と道の駅スタッフにお礼を言って再出発、ところが、単車のエンジンが掛からないのだ。
「マジっすか?」
 横殴りの雨を存分に受け、単車は水没寸前の状態まで陥っているのだ。ここは慌てず、エンジンを十分に乾かせて汗だくになって押し掛けを数回繰り返して……

   バルルルル…… 

やった、復活した!。焦りの汗が安堵の汗に代わり、僕は翌日の夕方に乗り込むことになっている鹿児島港のターミナルを目指した。

   * * *

 台風の爪痕はすざましく、国道3号線は途中寸断。こっちの方が「大丈夫かいな」という迂回路を登りおりして夕方までには鹿児島市内に到着。食事をしてからフェリーのターミナルに無事到着。
 ここで明日の確認。台風は無事に過ぎたということで、今日の夕方はちゃんと沖縄に向けて出航するそうだ、もちろん明日も。ただ、昨日出なかった分今日と明日は少し混むかもしれないが大丈夫とのことだ。
「いよいよ明日は船に乗るぞ!」
 台風で消耗した体力もすっかり回復し元気になった僕は、地元の温泉「かごま温泉」(地元の人は鹿児島をそう言うそうです)に入り、鹿児島駅近くの公園で野宿をした――。
 
   * * *

本日到達した都道府県。
   鹿児島
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