鉄の馬で日本を駆けろ!
八月四日 さらば!北の大地よ
昨日はだいぶお酒をいただいた割りには意外に抜けるのが速く、朝はシャキッと目が覚めた。昨日の仲間たちもしかりの様子で、朝から近くの吹上温泉まで単車を転がすことにした。
「みんなはこれからどこへ?」
「俺はここでバイトして旅資金捻出かな」
と答えたのは山形から来たRVF400乗りの仲間
「俺は明日、稚内方面へ」続いてZZ-R400乗りの東京の仲間。
昨日同じ神輿を担いだ仲間だ。そして同じ学生だから、価値観もバイク観も似たようなところで、露天風呂に入りながら話は止まらない。
「自分は、どこへ?」
そして僕も質問された。
「僕は、今日室蘭から本州へ帰るねん」
「そうか、寂しいな。あったばかりなのに」
「室蘭ってことは、青森か」
「そう」関西からなら通常は小樽ー舞鶴(京都府)を選ぶ。聞きたいのはそこだ。
「実は俺、日本一周の途中やねん!」
僕は湯から出て立ち上がった。
「マジすか?」
「やるなあ」
北海道、道は広く仲間も多い。はっきり言って楽しい。しかし、僕には進む道がまだまだあるのだ。
「無事に成功してくれよ」
「できるなら俺もやってみたい」
裸の付き合いをした仲間に激励された。
バイク乗りなら一度は夢見ただろう日本一周。それに挑戦ができる環境は自分の力だけでできるものではなく、こういった仲間の激励で走れるのだなと考えるとなんとも感慨深い。これは道中ずっと思っていた――。
僕たちは「ヒグマ」に戻ると大将の説明によると出発にはちょうどいい時間で、支笏湖を越えて行くと良いとのこと。
そこに「長寿の水」があるからそれを飲むといいそうだ。
一杯で五年、二杯で十年、三杯で死ぬまで長生きする
そうで、もし見つけたら二杯までにしておこう。
ヒグマの宿泊者に惜しまれて、そして応援されて僕は北海道最後の宿を後に、道央・大平洋沿いの港町、室蘭に向けて相棒を転がした。室蘭から青森行きのフェリーに乗って北海道を離れる予定だ。
* * *
支笏湖を越えて大将の言う通り「長寿の水」を見つけてきっちり二杯いただく。
そこから僕の旅は北海道最後の修羅場を迎えた――。
道を間違えて入った道道。およそ20キロの距離、今まで走ってきた距離を考えればどうってことないと思ったが、途中から修羅場が待っていた。
この先全てが未舗装のダート道なのである。相棒の250はいわゆるネイキッド型でオフロードには適していない。その上この年の北海道は雨続きの年で道は泥まみれだ。引き返すにも道がぬかるんでUターンも困難。前に走るしか抜ける方法はない。
当時の道道の舗装率は95%以上というのにその5%以下を北海道最後の日に当ててしまった。大自然故の洗礼、次々とオフロード車に抜かれ、泥まみれになりやっとのことで走破したときには陽が傾きかけていた――。
泥だらけの相棒にまたがり、夕方までには室蘭市に到着。チキウ(地球)岬で一週間にわたる北海道一周の終了を思っては耽り、明日から始まる「本州南下大作戦」のあってないような筋書きを作る。
「行きは大平洋側だったから、南下は日本海側中心に……と」
以上、作戦終了!
僕は展望台を離れる前に、ここにある「幸福の鐘」を鳴らし、南に見える海を見て、
さらば!北の大地よ
ありがとう、北海道
とお礼を言ってここを後にした。
そして23時過ぎ、青森に向けてフェリーは港を離れ、出港のドラがシャンシャンと大きな音を立てた――。
第一章「北の大地で」編 おわり。第三章に続く――。
作品名:鉄の馬で日本を駆けろ! 作家名:八馬八朔