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女教師と男子生徒、許されざる愛の果てに~シークレットガーデン

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 心優はあまりの言葉に激高した。
「私は誘ったりなんかしてないわ」
「ホントかなあ? 俺と先生のどっちが正しいかを知ってる人間は誰もいないんだよ」
 相も変わらずニヤつきながら言う青田の頬が鳴った。
「ふざけんな。先生がそんなことをするわけないだろう。どうせお前がここに連れ込んだ、違うか、青田」
 青田は長瀬に打たれた右頬を押さえ、肩を竦めた。
「さあ、ね。ああ、馬鹿らしい。これから良い目が見られるっていうときにとんだ邪魔が入って、おまけに殴られちまった」
 青田は急にすべてのものに興味を失ったかのように、首を振り、長瀬の側を通り抜けてトイレから出ていった。
「大丈夫か? 先生、震えてるぞ」
 気遣うように声をかけられ、心優は我に返った。小刻みに身体を震わせていたのに自分でも気づいてなかった。やっとの想いで微笑むと、長瀬に礼を言う。
「ありがとう、助けてくれて」
 何故か長瀬は少し眩しげに眼を細めた。
「別に礼を言うほどのことじゃない。あいつは昔から虫の好かないヤツだから」
 照れたようにそっぽを向いた彼の横顔は少し紅くなっている。教師に褒められて恥ずかしがるようなところはまだまだ子どもなのだ。心優はそんな彼を微笑ましく見つめた。
「ねえ、一つだけ訊いて良い?」
 心優の問いに、長瀬は眼を見開いた。
「なに? 俺の好みのタイプは自己紹介のときに話したはずだけど」
 心優は苦笑した。
「そんな話じゃないわ。どうして、長瀬君は青田君と仲が悪いの?」
「ああ、そんなこと」
 長瀬は大袈裟に肩を竦めて見せる。
「つまらない話さ。昔、ガキの頃のことをいまだにあいつが根に持っているだけの話」
 長瀬が話したのは確かに、笑ってしまうような子どもらしい、よくある話だった。長瀬と青田は悪縁があるらしく、小学校の頃からずっと同じ学校だ。二人ともにR学園の附属小学校の出身である。
 六年生の卒業も間近になったある日、ある一人のクラスの女子が長瀬にバレンタインのチョコレートを渡した。その子が青田がずっと好きだった女の子というのも皮肉なめぐり合わせである。
 長瀬がその子からのチョコレートを受け取ったことに対して青田は抗議を申し入れた。
 その時、長瀬は
―折角、俺のために手作りまでしてくれたチョコを受け取らないわけにはいかないだろう。
 青田にそう告げた。しかし、彼は頑として聞き入れなかった。
―好きでもないのなら、気を持たせるような行為は慎むべきだ。お前はチョコレートを返すべきだった。
 何も長瀬はその女の子一人からのチョコレートだけを受け取ったわけではない。その頃からルックスも抜きん出て良く、少し陰のある不良がかった雰囲気がまた女の子たちに受けた。クラスの半数の女子からのチョコレート、つまりプレゼントされたものはすべて返すことなく受け取った、ただそれだけのことだ。
 だから、青田の好きな彼女だって、長瀬がけして自分だけ特別扱いしたわけではないと判っているはずなのに、青田は本気で怒っていた。もちろん、青田にはその子からのチョコはなかった。
「あいつが俺を眼の仇にするようになったのは、それからさ。卒業式の後で、青田がその子にコクって見事にフラレたっていう噂も流れたけど、俺は本当かは知らない。まあ、それから、その子は公立中学に行って、俺たちはここの中等部に進んだから、それっきりだ。でも、その頃からますます青田の俺への攻撃が烈しくなったから、コクってフラレたというのは満更嘘じゃないかも」
 実に他愛ない話だ。心優は笑った。この頃になると、やっと笑えるくらいの落ち着きは取り戻していた。
「さしずめ、恋のライバルというところね」
 長瀬は心底いやそうな表情になった。
「止せよ、そんなごたいそうな代物じゃない。俺から言わせれば、傍迷惑な逆恨みなだけなんだからな」
 確かにそれはそうだろう。長瀬とその女の子が両想いで今も続いているのならともかく、相手を傷つけないためにチョコレートを受け取っただけで恨まれては堪らない。
 と、長瀬が思いもかけないことを口にした。
「ところで、俺も一つ訊いて良いか?」
「ええ、もちろんよ。私の好みは小栗旬、他に何か訊きたいことは?」
 ふざけて彼を真似ると、またしても長瀬は嫌そうな顔で言った。
「小栗って、山田優のダンナだろ? この間、山田優が妊娠したとか報道されてたけど。あんな嫁さんのいるオッサンに惚れて、どうするんだよ?」
「オッサンって、小栗旬はまだ三十歳くらいでしょ。それに、俳優とか芸能人を好きになるのに、奥さんがいるとかどうか関係ないわよ、別にリアルじゃないんだから」
「俺、これでも自尊心の強い男なの。自分の前で女に他の男が好きだって話を滔々とされるのって嫌いなんだよ。それに、高校生から見りゃ、三十はもう立派なオッサンだよ」
 心優はこれにも笑ってしまう。確かに、十七歳の高校生から見れば、三十歳は?オッサン?なのかもしれない。もっとも、小栗旬はそんなことは感じさせないほどに若くて格好良いが、とは彼には言わなかった。
 長瀬はもどかしげに言った。
「俺が訊きたいのは先生の好みなんかじゃない」
「あら、自己紹介っていうのは自分の好みのタイプを言うんじゃなかったかしら」
 澄まして言ってやると、長瀬は呆れたように言った。
「見かけによらず、執念深い女だな」
 その後で、ふと真顔で訊いてくる。
「俺が知りたいのは別のことだよ。先生、さっき青田に襲われそうになった時、異常に怖がってたように見えたけど、何か原因があるのか? 俺の気のせいじゃなければ、確かに?止めて、お義父さん?と叫んだような気がする」
 心優は言葉を失った。
―長瀬君に聞かれていた?
 蒼褪めて黙り込んだ心優に、長瀬は意外に優しげな声で言った。
「何か事情がありそうだな。別に無理に訊き出したいわけじゃないから、先生が話したくないのなら良いよ」
「本当にありがとう」
 心優がもう一度心から礼を言うと、長瀬は破顔した。
「先生には借りがあるだろ、これでもうお互いに貸し借りなしのチャラだぜ」
「借りって?」
 心優は本当に何のことか判らなかった。長瀬はニッと笑った。
「自己紹介の時、青田が俺の両親のことをとやかく言ったときさ。先生が俺を庇ってくれたじゃないか、俺は今日、あのときの借りを返しただけだから」
「私は教師として当たり前のことをしただけよ」
 長瀬はそれには応えず、ついと手を伸ばし、心優の一つに結んだ長い髪に手を伸ばした。
「先生、近くでこうして見ると、本当に佐々木希に似てるな。凄く綺麗で可愛い」
 声を出す暇もなかった。長瀬の手は愛おしむように心優の髪を撫で、更に呆気ないほど素早く離れた。
 そのときだった。職員用の女子トイレに新たに入ってきた人物が声を上げた。
「前橋先生、五組では今、大変な騒ぎになってますよ。五時間目は古典なのに、前橋先生が来ないって、職員室の方でも皆が手分けしてあっちこっち探してるのに」
「私ったら」
 心優は血の気の引く想いで、頭を下げた。
「済みません、その少し気分が悪くて、トイレにいたので。時間が経ったのにも気がつきませんでした。至急、五組に行きます」