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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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rainy blue もう・・

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年末、会社が休日となる数日の間、色々な処でバイトをする。その事を話すと、多恵は、
「じゃあ、わたし、久し振りに両親の顔でも見に帰ろうかな、一人で居てもつまらないし・・」 と。

そして、新しい年を迎え、10日ほどが過ぎた時、俺達は、何時もの居酒屋で会った。
「どうだ、親っていくつになっても好いものだろ?」
と、親なんて全く縁の無い俺が言うと、
「うん・・、実はね、親に会ったのは1日だけ・・っていうか、一晩だけなんだ・・。わたしね、休みを利用してフィリピンに行ったの。」 
と。
俺は、無言で彼女を見た。
そういえば、心なしか日焼けの跡が・・
「潤ちゃんの大好きな国が見たくて・・」
「・・それで、どうだった?」
「良かったよ、とても。色んな処を訪ねて・・古い教会とか、街の市場とか・・、潤ちゃんの言うゴミゴミしたディビソリアとか・・」
「あんな処に一人で行ったのか?」
「うん・・、ロートンの通りを歩いてね、何時かあなたが話してくれた中華街に向かう橋の上から、薄汚い水に浮かぶ浮草も見た。」
「そう・・」
「それでね、わたし、分かったの。」
「何が?」
「あなたは、此処に居ても、あの国に合わせて生活してるって・・。便利さに慣れない様に・・物を大切に・・無駄をしない様に・・。但し、楽器だけは別だけどね、もう気に入ったら何がなんでも買ってしまうんだから。」
「お前と出会ってから、一つしか買ってないぞ。」
「そうだけど、分かるの。」
「・・(その通りだから、何も言えない)・・。しかし、女性一人で行って、あの国が良かったなんて言う奴など珍しいな。」
「一人でなんか行ってないよ。何処でも潤ちゃんと一緒に歩いたよ。」
「・・・」
「だから、怖くなんかなかったし・・。みんな親切だったよ。」
「・・・」
「わたし、行っても好いよ、あなたと一緒なら、ずっとあの国に住んでも好いよ・・。」
「ああ、そう(ったく・・どう応えれば良いんだ)。・・だけど何故わざわざ・・」

あの国に行くには、今の住まいからなら、関空を使う方が遥かに便利だ。それなのに何故わざわざ成田から・・? と考えるうちに・・、まさか・・ってな思いが浮かんで来た。
俺は、改めて多恵の顔を見た。
彼女は、笑いながら頷いた。そして、
「わざわざ・・遠回りしたのはね、潤ちゃんと付き合ってるって、両親に話す為。」
「・・・」
「たった一晩だけ。それも、わたしが一方的に話して・・」
「・・」
「もう、二人とも驚いてた・・。開いた口がふさがらないって感じ。」
「バカだなぁ・・、この歳になって、ただ付き合ってるだけで親に話すのかよ。」
「わたし、ただ付き合ってるだけじゃないよ。しっかりあなたを見ながら、自分の事も見ながら付き合ってるつもり。」
「・・」
「父は、殆ど無言だったけど・・、母がわたしと二人だけになった時に、『離婚以来の落ち込んだ顔が、見違える様に明るくなった。きっと、彼から色んなものを貰ったんだろうね。あなたが失っていたものを取り戻せるといいね。』って、言ってくれた・・」
「・・」
「・・ふふ、それでね、一体何処まで関係が進んでるの?って、母が聞くのよ。・・わたし、『潤ちゃん、子供だから、何もしてくれないの』って・・。・・潤ちゃん、どうしてわたしに何もしてくれないの?」
「どうしてって・・、大切なものは、大切にしたいから・・」
って、俺は、つい言ってしまって・・、彼女の罠に嵌まってしまって・・




       家族 の 味


>大勢の人から離れ、
ポツンと立ち尽くしている俺を、よっちゃんのオヤジさんが見付けて近付いて来る。
「お前のばあちゃんが、煙になって天国へ上がっているんだ・・。これが最後だぞ・・しっかりと見ておくんだ・・」
と、よっちゃんのオヤジさんは、大きな腕で俺をギュッと抱きしめて言った。

>何が哀しいというのではないが、
昔、
俺は、時々、
家の横に在る納屋の裏で、一人こっそりと泣いた。
特に、
西の空で、夕陽に照らされた濃い鼠色の、流れる様な細い雲を見ると、
心の中で、『ばあちゃーん!』と叫びながら・・

そして、これでもかというほど、涙をしっかりと拭いて、
また家の中に入る、『またメソメソしてたのか!』 と叱られない為に・・

と、此処までは、以前俺が書いた日記の一節。

つまり、そんな風に、婆ちゃんが居なくなってからの俺は、家族なんて居なかった。
只々、何処かの家の隅っこで、多少縁の有る家族を観ながら育っただけ。家族ってのは、俺にとっては他人のもので俺なんかのものじゃなかった。

多恵に嵌められて(って言い方してるけど・・)、つい口から出た本音。そう、本音だ。俺は、いつの間にか 多恵を、とても大切な人だと思う様になっていたんだ。
彼女も俺を大切だと思ってくれているのはよく分かる。
二人は、同じ思いなんだけど、俺は、どうして彼女の様に素直に自分の気持ちが言えないんだ・・。
それは、俺自身、心を許し合える家族の一人としての経験を持つことなく、此処まで生きて来たからか・・。
だから、一人で生き続けるんじゃなくて、互いにパートナーとして認め合い、一つ屋根の下で暮らし、やがて一人、また一人と、その人数が増えるという想像は出来るが、実際の経験は全くない。家族を造る経験が無いのは当たり前だが、その造る過程の一人としての経験も無い。
だから、家族とは、永遠の憧れにしか過ぎないものだと思っていた。現実のものとして考える事を、心の何処かで抑えていた。
だから、あんな事を言った俺は、多恵を送った帰り道、急に臆病になった。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、その日から、彼女は毎晩電話をしてくる。そして、あれやこれや、聞いた端から忘れて行く様な何でもない話を延々と・・。そして、最後は、
「あっ、もうこんな時間・・。それでは名残りは尽きないけど、また明日という事にして・・」
って・・。だから、分かってはいるのだけれど、
(あいつ、勝手に話すだけ話して、勝手に電話を切って、スヤスヤ眠るのかよ。。) と。
だから、俺の眠そうな目は、職場のみんなの目にとまり、
「浮舟くん、昨日も彼女が放さんかったんか?」
とか、好奇心見え見えの顔と言葉で冷やかされるし・・。
そんな日を過ごすうち、何でもない時に、以前出逢った或る神父の言葉が浮かんで来た。
『これが私ですよと、全て曝け出す事が出来れば、人間とても楽なのだけどねぇ・・』

そうだ。
俺は、彼女の前では、何も隠すものが無い様にしなければ・・。なにもカッコつける事など無いんだ。
俺は、彼女の全てが好きな訳じゃない。変わって欲しい処も幾つか有る。彼女が、俺の前で、全てを、彼女の全てを見せてくれているから、変わって欲しいと思う部分が分かるんだ。分かったからといって、そんな好きじゃない部分も全てひっくるめて、彼女を大切な人だと思っている。
きっと、彼女は、色んな言葉を使って、俺に、
「もっと素直になろうよ。人間、そんなに強くはないのだから・・」
って言い続けてくれているのかも・・

俺は、彼女に電話して、まだ纏まらない俺の頭の中を、出来るだけ詳しく伝えた。随分長い俺の話を聞いた後、
作品名:rainy blue もう・・ 作家名:荏田みつぎ