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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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rainy blue もう・・

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「色々考えてるのねぇ・・、わたし、上手く言えないんだけどね、今のわたし、今日、潤ちゃんの方から電話してくれた事の方が、心の中を正直に話してくれた事よりも嬉しいんだ。・・あなたは、わたしに『よく毎晩電話して話す事が絶えないなぁ』とか言うけどね・・、わたしは・・毎晩、あなたからの電話を待って・・、かかって来ないから・・わたしは、何度も携帯を手にして・・もう少し待とうって、携帯を置いて・・」
その何度目か手にした携帯で、俺に電話するのだと・・
そして、
「他人にとって何でもない事が、自分にはとても大きなものなんだって事、誰にでも有るよ。それを一人で持つより、これからは半分づつ持とうよ。」
と言ってくれた。




     避けて 通れない こと


その日は、近年珍しい積雪で、現場の作業は中止。俺達は、資材置き場などを簡単に片付けただけで早目の退社となった。

雪は降り続き、俺は、部屋でゴロゴロしているうちに暫く眠って居た様だ。
目覚めると、携帯が着信を知らせている。

(雪だね。仕事は?)
(今日は 早目に帰った)
(もう。お家なの?)
(Yes)
(こんな日は、日本酒だよ。暖まって帰ろうよ)
(だから もう 帰ってるって)
(じゃあ、再び出て来るのだ、浮舟くん!)
(・・はいはい)
って事で、

いつもの居酒屋に行くと、こんな雪の日だというのに、店は大盛況。まったく・・座る処もありゃしない、と思っていると、
「おっ、そこの美女と野獣、今日は満員じゃけん、こっちに来て一緒にすわれ」 
と会社の同僚が声を掛けた。
俺達は、一瞬顔を見合わせたが、客が立て込んだ今日の様子では、お招きに与る以外ない。
「やっぱり女性が居ると、ええのう。」
とか言って、何だか俺達を肴に、急に盛り上がる同僚達。
何時もとちょいと違った調子だから、俺も、多恵も、少し早目に失礼した。
そして、雪の日だけど、何時もの様に、俺達は並んで歩き始めた。帰り道の話は、今度は俺達が、同僚を肴に・・

広い通りを暫く歩き、右に曲がって坂道を上るのが通常の帰宅コースだが、
「潤ちゃん、こんな雪の日だから、もっとロマンチックを感じようよ。」
と、多恵が。
「ブーツ履いて、しっかり着込んでは居るけど、そんな覚束ない歩き方じゃぁな・・」
「だから・・、そんなわたしをしっかり支えてくれても好いんだよ。・・そして、坂道なんか避けて・・、ずっと向こうの公園の在る通りを通っても好いんだよ・・」
(そりゃぁ、俺は、スパイク付きの色気も何もない長靴で、滑る心配など無いのだけど・・)
と躊躇していると、多恵は、俺の腕をそっと抱く様にしてくっ付いて来た・・
「暖かいね、潤ちゃん・・」
「そう・・」
「うん。・・ほんとに綺麗だね、何処も真っ白・・」
「雪だから・・白いに決まってるだろ・・」
「もっと気の効いた台詞、言えないの? 女はね、幾つになっても・・・、あっ、そうだ・・。潤ちゃん、わたし達、これからの話をする時、少なくともわたしは、あなたと一緒に・・ってつもりで言ったり聞いたりしてるのだけど・・、潤ちゃんは?」
「・・うん、俺も・・、そう。」
「それって、何か変だね。」
「・・?」
「だって、あなた、わたしに、なんにも言ってくれてない・・」
「・・」
「雪の日だから、映画の様に膝間づいて・・とは言わないわ。だけど、ひとつの区切りだから・・」
「(なんでこういう話しになるんだ・・)・・、あのな、俺・・」
「うん・・」
「そんなに近くで見上げるなよ・・」

モタモタしながら、こんな寒い日なのに、俺は・・汗をかきながら・・、やっとの事で彼女に結婚を申し込んだ。

「うん、これから、もっと幸せになろうね。」
「今のままで好いよ。」
「夢がないなあ・・。ロマンチックじゃないなあ・・。」
俺は、ずっと俺の腕を抱いていた彼女の腕をそっと引き離した。そして、少し膝を曲げて、片腕で、俺の隣に立つ彼女の両脚を抱え、もう一方の手で彼女の手を掴み、ヒョイと肩まで持ち上げた。
多恵は、小さく悲鳴を上げたが、すぐに俺の肩と腕に上手に座った。彼女の胸から上は、俺の頭上に在った。
「どうだ、景色が違って見えるだろ?」
「うん・・・」
「何時も俺の事、その辺りから見ててくれよ。」
「うん・・」
俺は、恥ずかしがる彼女を肩に載せたまま、公園通りを暫く歩いた、期せずして神様からプレゼントされたこの日に感謝しながら・・




      いろんな 涙


神様は時々、バカな俺達には、到底理解し難いストーリーを、その一人ひとりの人生に描く。

たった一人の家族を奪われ、俺は、親父の弟の家に転がり込んだ。っていうけれど、その時、俺の意志なんてまったく蚊帳の外。
生きる術。小さな俺には、そんな言葉が有る事さえ知らなかったが、今、考えると、子供なりにそうするしか仕方ないと心の何処かで思っていたのだろうな・・

其処では、良い思い出なんか、只のひとつも浮かんで来ない。憂さを晴らす為、兎に角喧嘩の日々。中・高校時代は、かなりなやんちゃだった。ほんとは良い子に成りたいんだという気持ち、なんでこう悪い方向にばかり行くんだという気持ち・・、とにかく揺れながら・・。
でも、真面目に仕事だけは・・ 『仕事をしない人は、犯罪者と同じだよ。』 と言った婆ちゃんの言葉が忘れられなかったから。
(俺は、親父の様な本物の極道なんかとは違うんだ。とっても優しい婆ちゃんの遺伝子を、全部貰ったんだから・・)
そして、オジキを家の床に敲きつけて、こんな国から飛び出した。
帰る気など無かったから、帰りのチケットなど必要ないから、田舎に向かうバスの窓から、紙吹雪にして・・
だが、
その国で、人の心の温かさに出遭い、生きて行く事の意味を考える様になった。数年後、俺は、洗礼を受けた。洗礼名は、ユダ。
その国で出逢った日本人の言葉、 『私の洗礼名は、ユダ。十二使徒には、二人のユダが居た。一人は、あの有名なユダ、もう一人は、世の最底辺で苦しむ人々を救う誓いをたてたユダ。さて、私は、死ぬ時、どちらのユダとしてあの世に行くのか・・自分で自分を見てやろうと思ってね。』
俺は、その彼の言葉に飛びついた。

帰る気など無かった国の、ある意味象徴である新幹線の中で、俺は、そんな過去の思い出を、断片的に・・

ホームに降りた俺を、一足先に来ていた(帰っていた)多恵が迎えてくれた。滅多にないスーツ姿の俺に、
「馬子にも衣裳だね・・」
「・・首が・・苦しい。早く脱ぎたいよ。」
そして、案内されるまま、俺は、彼女の御両親に挨拶する為に・・
「・・大丈夫?」
「何が?」
「なんだか何時もの潤ちゃんじゃない・・」
「着慣れない服の所為だ・・」

内心やや・・随分・・心配だったが、俺は、強がりを言いながら・・

多恵の家では、俺の心配に反して、御両親は、にこやかに迎えて下さった。(ああ、助かった・・)
一通りの挨拶の後、御両親の承諾を頂き、食事の席での話だけど、彼女の母親が、
「実はね・・」
と。
作品名:rainy blue もう・・ 作家名:荏田みつぎ