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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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rainy blue もう・・

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と言うと、彼は、嬉しそうにすぐに袋の中を覗き込んだ。親父さんには、毎晩チビチビやる好物の日本酒を・・。
何時もは、暫く三人でワイワイ話して帰るのだが、俺は、庭先で失礼した。
(ゆっくりなんかしてられない。新しい仕事、探さなきゃ・・)
と思った途端に、可笑しくなった。
俺も一人前に生活の事を考えてる、などと可笑しくなった。

幸い新しい仕事先はすぐに決まり、そこの仲間たちも良い人ばかりで、何とか食い繋ぐ事が出来、今に至っている。

土曜日の夜、俺は、何度目かの食事を多恵と一緒にした時、そんな話をした。それまでは、殆どの時間、彼女が思い出話や職場での話など、まあ女ってのはどうしてこんなによく口が回るんだ・・というくらい話してた。それが、
「それで・・潤ちゃんは? どうなのよ、この街に来てから・・っていうか・・」
とか、急に言い出すものだから・・
俺の話を聞いて、
「ふ~ん・・ でも、あなたらしいって云えば、あなたらしい話しだね。」
と、多恵は、何だか分からない表現を。
「どうだか分からないが、俺、婆ちゃんの事しか気にならないんだ・・。親父とか生死さえ分からないお袋とかは、何だか別の世界の人。だから、婆ちゃんの命日の墓参りだけは、何が有っても行かなけりゃ・・」
今の会社は、理解が有って、そんな我儘を許してくれる。
「だから、一生懸命働いてる。」
「・・ふふ・・変わってないね、その単純極まりない考え方・・、たった三日の為に年中一生懸命・・」
「まあ、この考え方の方がすっきり生きれるからな・・っていうか、自然にそうなるんだ。俺の思考回路は加減算で、乗除なんて難しすぎるから・・」
「ええ? それって、私への皮肉? 私の話、そんなに難しかったりしてる?」
「ああ、時には余りがある・・、割り切れない・・」
「・・・・」
どうも女性ってのは分からない。ついさっきまでニコニコだったのが、俺の一言でしんみりだもんな・・・冗談で言ったつもりなのに・・




       男が 女を 愛するって


とにかく 色々あり過ぎるんだよな

このところ くそ面白くない事ばかり続いてる
何処かのおっさんの運転する車が、急に脇道から飛び出して、寸での処でぶつかりそうに・・
なのに なんで俺が 奴に怒鳴られなきゃならないんだ・・
おまけに奴、車からわざわざ降りてまで、
「何 やっとるんじゃ!」 だって?

昨日は、遅くに電話してきた多恵が、挨拶もそこそこにシクシク泣き出すし・・ 俺は、黙って、彼女の泣き声を聞くだけで、一体何をどう言えば良いんだ。
「・・ごめんね、泣いたりして・・」
「べつに 好いさ。・・(俺が泣きたいよ。。)」
「うん・・」
「フィリピンはな、今とても暑いんだ。」
「そう・・」
「だから、もう朝から、通りに立ってるだけで、何だかムカついて来る・・。あんたが泣くのも、きっとそんなものだろ?」
「・・」
「年々歳は重ねるけど・・、人ってのは、そんなに成長しないのかも知れない。・・だから・・・」
「だから・・?」
「つまり・・、そういう事なんだ。」
「ふ~ん、そういう事なの・・」
「うん。」
「ふふ・・、好きだよ、潤ちゃん・・」
「そう? ありがとな・・」
「うん・・。だから?」
「・・ああ、だから、幾ら大人の様に見えてもだな、意味も無く、子供の様に泣きたくなる時も有る。・・一人で泣きたい時とか・・誰かの前でとか・・、頭で考えるんじゃなくて、もっと他の何かがそう思わせるんだよな。」
「・・それで、それがフィリピンの暑さとどう繋がるの?」
「暑さとは・・繋がらない。」
「じゃあ、何と繋がるの?」
「そんな事、自分で考えろよ。泣いたのは、あんただろ?」
「禅問答みたいね。何時もの様に、冷たい言葉、ありがとう。」
「礼には及ばない。」
「お礼なんかじゃないって、分かってるくせに・・」
「そういう風に、訳分からないのが禅問答だろ?」

暫くそんな訳の分からない遣り取りの後、電話を置いた。
きっと、多恵、今度は一人で涙を流してるかもな。
もっと気の効いた言葉を言うべきだったかな・・。でも、
これも一つの愛だ。
このところ、急速に近付いて来る多恵の気持ちが分かる。
だが、今の俺は、誰と暮らしたって上手くやって行けるし、誰と暮らしたって何処か消化不良を感じるだろう。
そんな時期に、相手の気持ちを受け入れる様な素振りを見せたのでは、その相手に申し訳ない。ただの遊びで他人の人生を左右は出来ない。
遊びと言ったすぐ後だが、俺の彼女に対する気持ちは、愛だ。でも、それは、他の誰にでも感じる愛で、だた多恵一人へ感じる独特の愛ではない・・と 思うのだが、・・分からない。
だから、そんな事を考えて、なかなか眠れない・・

って、そんな翌朝のおっさんだ。
何も混雑した通りで、わざわざ車を降りて来てまで、文句言われる筋合いなど無いぞと、俺も、それだけが言いたくて車から出た。
「話が有るなら、脇に移動しろよ。何処までも付き合ってやるから・・」
そう小声で言うと、おっさん一瞬目をキョロキョロさせて、
「気を付けて運転せいと言うとるんじゃ。」
とだけ言って、車に戻った。
訳が分からないわ。。
まあ、いいか。これで遅刻せずに済みそうだし・・




       ありがとう 温かさ


こんなに寒い夜だというのに
俺達は、1時間以上もゆっくりと歩いてる。

クリスマス前に
俺の妹みたいなチャイリンと
その家族にささやかな贈り物を郵便局に預けた日
俺と多恵は
この頃 ちょくちょく寄る居酒屋に行った。
そして
其処を出ると
ほんとに普通の話をしながら
俺達は、彼女のアパートまで歩く。

タクシーを使えば ほんの僅かな距離なんだけど
何時の頃からか
そこまで並んで歩く様になった。
だから最近
多恵は 
やや踵の高い靴を
俺と会うその日だけ運動靴に履き替える。

「この靴を履いた日はね、・・なんだか朝から楽しいの。」
「そう・・」
「相変わらずね。」
「俺は、何時も運動靴だ。」
「また始まった・・ ひねくれ者だねぇ、君は・・」
「ありがとね・・、俺の事、分かってくれて・・」
「うん、最近ね、わたし、嬉しいんだ・・、わたしの前で、潤ちゃんがどんどん素直になってくれるから。」
「俺、素直にひねくれてるのか?」
「うん、そう。ひねくれて喜ばれるって好いでしょ?」
「まあな・・」

・・・

「ありがとう。気を付けて帰ってね・・、それとも、少しうちで暖まってから帰る・・?」
「帰るよ。・・充分温まったから・・」
「・・・」
「ありがとな・・」
「うん・・、こちらこそ。」

さあ、俺んちへ帰るか、と
歩きはじめた時
多恵が、俺を呼び止めた。
そして
「潤ちゃん・・、わたしも温まったよ、ありがとう・・」
と言った。

俺は、少しだけ唇を緩め
ほんの少しだけ頷いた。




     俺の 知らぬ 間に



定期的になど、とても出来る事じゃないけれど、
俺をここまで育ててくれたフィリピンに、
ささやかなお礼のつもりで、小金が貯まると彼の地の恵まれない人達にと日用品などを送っている。
だから、
作品名:rainy blue もう・・ 作家名:荏田みつぎ