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You and I and ...?

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 顔なじみのラーメン屋に入ったところでまた盛大に舞岡の腹が鳴って奴はようやく我に返った。
 ……店の中が一瞬静まりかえったのは内緒だ。

「……わたし……わたし、わたし……」
「とりあえず、席に着くぞ」

 半泣きの舞岡の肩を掴んで、無理矢理手近なテーブルに座らせる。その肩もやっぱり細い。
 体重、俺の半分もないんだろうな……。

「お前何食べる?」
「えっと、ラーメンのチャーハンセッ」

ぐきゅるーん

腹の虫も元気に応えてくれた。
恥ずかしさにのたうち回っているうちに、店のオヤジに注文を伝える。

「何でそんな腹すかしてんだ。いつもか?」
「ち、違う!」

 慌てて否定した。口調が元に戻っている。……いや、あれはあれでおもしろいんだけどな。

「今日は、片倉君に告白しようと思ったから! 願掛けに断食を……」
「だ、断食!?」

 思わず笑いがこみ上げてきた。
 願掛け……願掛けっていつの時代だ……。

「すげぇな、お前」
「やや! いつもやってるわけじゃないんだよ! 今回は……」

 いいかけたところで、真っ赤になってうつむく。
 俺に告白するから……かぁ。
 そこで二人分のラーメンと、舞岡の分のチャーハンが届いた。
 オヤジが舞岡を見てちょっと笑ったのも、奴には内緒だ。きっと店の外に飛び出していくだろうから。

「いただきます」

 手を合わせて言った俺に、舞岡がきょとんとしてみせる。

「……どうした?」
「え、え……ううん、ちょっと意外だなって思っただけ」
「意外?」
「意外と礼儀正しい」

 そういって笑ってみせる。
 言われたことは失礼この上ないが、悔しいことにその笑顔に文句を押しとどめられてしまった。
 意識してんのか!? 俺! 俺!

「くそっ、曇る」

 ラーメンは眼鏡ッコの天敵だ。視界が真っ白にくもってしまう。
 毎回の事ながら、毎回のことに苛つく自分が情けない。

「……ふわぁ~」

 眼鏡をとった俺に、舞岡が声を上げた。声だけで分かる。
 ……感動してる?

「やっぱ、眼鏡ない方がいいよぉ」

 本当に感極まった声だった。顔はぶれて見えないけれど。

「コンタクトできねぇんだよ。角膜弱いから」
「そうなんだ」
「それにしてもお前、よく食べんな。そんなちっこいのに」
「……ちっこいって言うな!」

 いきなり怒った。
 どうやら気にしてるらしい。

「好きでちっこく生まれたわけじゃないやい!」

 どうやらすごく気にしてるらしい。

「……悪かったよ」
「……」

 返事はなかった。見れば、もくもくとラーメンをすすっている……ようなシルエット。
 ……機嫌は直ったのか? 表情が見えないからわからない。
 しばらくは二人、ラーメンを食べる。
 やはりこの店のチャーシューは最高だ。どうやったらあのお豚様がこんなとろける脂になるのか……。
 そんなことを考えていると、舞岡が何かポツリと呟いた。

「……本当ならもう2メートル越えてるはずなのに」
「なんだそれ」
「千鶴の身長増進計画。中学一年から毎月2㎝ずつ伸びていく計画だったのに」
「ぶはっ」

 また吹き出してしまった。
 よかった、麺を口に含んでいない時で……。
 だがツボにはまった。

「……おま……2メー……トルって……そんな伸びたら逆に怖いっての……ぷっ、ははは」

 あとは笑い。爆笑。
 やばい、本当にこいつ面白い。考えてることが一般人とずれてるというか……馬鹿というか……。いや、こいつ馬鹿だ。絶対。
 だが、どんなに笑っても舞岡は何も言わなかった。
 ……火に油でもそそいじまったかな?
 麺も全て食べ終わったことだし、眼鏡をかけた。

「っ、」

 ところで言葉を失う。
 舞岡の顔を一言で言うと微笑。本当に優しい顔で笑っている。
 ドキッとした。くやしいことに。

「な……なんだよ」
「ん? なんでもないよ?」

 無意識かよ。余計たち悪い。
 こいつ、俺のこと好きなんだよな。
 眼鏡の“かけてない”俺のことが。
 “それ”に向けた微笑み。

「……でるか」
「ぅ、うん」

 会計を済ませて、店の外に出た。
 もう空は真っ暗。大通りから少し入ったこの場所には車も通らない。

「ごちそうさまでした」

 ぺこり、舞岡が頭を下げた。

「いえいえ」
「で、ですね。あの、告白の返事は……」

 ……やっぱり来てしまったか。
 告白の返事。好きか、嫌いか。
 嫌いだったらさよならで、好きだったらはい、おつきあい。
 この、眼鏡のかけてない俺が好きだというこいつに。

「……お前、俺のどこが好きなんだっけ?」
「眼鏡をかけてない顔!」
「じゃあ眼鏡かけてる俺は好きじゃないんだ」
「……え?」

 あからさまにきょとんとした顔しやがった。
 ……そういうことだよな。

「俺、眼鏡かけてるところが好き! っていわれ続けてうんざりしてんだよ」

 うんざりの部分で舞岡がびくりと肩を震わせる。

「眼鏡かけてる俺、かけてない俺、どっちも俺なのに、なんで区別すんの?」

 どっちも俺なのに。それは変わらないのに。

「つまり、俺の外見しか見てないってことだろ?」
「……」

 舞岡は応えなかった。
 俺も舞岡を見なかった。
 それで終わり。俺は舞岡を置いて歩き出した。
 本当だったら男たるもの送っていくのが世の常であるようだが、たぶん俺がいない方が良いような気がしたから。


作品名:You and I and ...? 作家名:神納舞