You and I and ...?
次の日。
「そういえば、どうなったんだ? 片倉。舞岡ちゃんのことは」
「ん? ふった」
「っ、いつのまに……」
弁当の飯をかきこみながら、吉野に応えた。
「もったいない……」
「お前、俺が女子振るたびにそんなこと言ってるな」
「そうだけどさぁ」
吉野は溜息をつきつつパックジュースをすすった。
「ほんとに、女泣かせ」
「俺が好きにならなきゃ相手に失礼だろ」
「真面目な奴~」
真面目?
そうだろうか。昨日舞岡を結局ラーメン屋に放置だったし。
今日は姿を見てないけれど……とはいえ、今までも見たことなかったけど。クラスが離れているからしょうがないといえばしょうがない。
今更見に行くのも変だしな。
「何、片倉。どこいくの?」
「呼び出し」
そう言って、ポケットにねじりこんでいた封筒をひらひらさせた。
「引く手数多か~、うらやましぃ~」
全然うらやましいと思ってなさそうな声でぼやく吉野を無視して、俺は教室を出た。
廊下でも女子のラブ☆ビームを感じる。
言い忘れたが、ラブ☆ビームの名付け親は吉野だ。真ん中の☆は取っちゃ駄目らしい。……って誰に言ってるんだ。俺は。
「……いないな」
……無意識のうちに探している気がする。人より低い位置にある、色素の薄い髪を。
何考えてんだ。俺。
もう終わったことだろ。あいつのことは。
大きく頭を振って階段を上った。
本日の呼び出し場所は屋上。
今はポケットに戻った手紙の中には「昼休み、屋上に来て下さい」それだけしか書いてなかった。
名前もない、その一言。
まぁ、珍しい事じゃないけれど、気が重いったらない。
大きく溜息をついてから、屋上への入り口となる鉄の扉を開けた。
そして。
「……」
呆気にとられた。
そこにいたのは俺よりも定規一本分くらい低い位置の頭。
色素の薄い髪に、肌。心なしかぶかぶかに見える制服。
「……舞岡」
「お待ちしておりました!」
その顔は……怒っていた。
たぶん。
「ふられて逆上したか?」
「っ! 逆上なんてしてないもん!」
ただ、そう言って舞岡は一歩前へ踏み出した。
「言い返したくて!」
「ほぅ」
俺も、一歩前に出る。
「片倉君! あなた! 昨日わたしのことちっさいって言いましたね!」
「……言ったけど」
「ほら! そうじゃない! 同じじゃない!」
何か勝手に納得した。
「は?」
「誰だって最初は外見から入るんですぅ!」
「……」
まぁ、そうだよな。
「わたしはこの高校で初めて片倉君に会って、でも同じクラスになれなくて、二年生も三年生もクラス替え無いっていうから、全然接点無いでしょ!?」
「そうだな」
「そんな時に“中身”なんて見れると思う!?」
「……」
確かに。
「わたしは、確かに最初眼鏡かけてないあなたにときめきました! でも!」
泣きそうな顔で、舞岡は叫ぶ。
「ぶっきらぼうな話し方も、吉野君といるときにツッコミ役にまわっちゃうところも、すぐ吹き出すところも、それでいて凄く礼儀正しかったりするところも!」
本当に、今にも泣きそうな顔で、舞岡は叫ぶ。
俺に向かって。
まっすぐ、俺の目を見て。
「好きだよ! 後付けじゃだめなの!?」
大きく、風が吹いた。
この叫び声が階下に聞こえてるなんてことないよな。主な脳みそじゃないはじっこの方でそんなことを考える。
で、脳みそのメインを締めているところはと言うと……あぁ、言いたくない!
「……なんてことを、実は昨日奢ってもらったラーメン屋さんの前で叫んだのですが……もう片倉君は帰った後で」
「ぶふっ」
やべぇ、また吹き出してしまった。
叫んだのか。あそこで。
小さい体で必死に叫ぶこいつと、その後俺がいないことに気づいた後のこいつを想像すると思わず笑ってしまう。
が、舞岡は怒らなかった。
「わたしは、片倉君が笑う顔が好き。眼鏡をとった時の優しそうな顔で、優しく笑う片倉君が好き」
……さて。
どうしたものか。
本気モードに入ってしまった。
でも。
「……でも、俺お前のことあんまよく知らないから」
「っ」
ざっくりいったらしい。これはざっくりいった顔だ。まぁ、それは予想範囲内だけど。
「だから」
聞かせたいのはこの先。
「まずは、お友達からっていうのでどうだ?」
舞岡の顔が一気に明るくなった。
「いい!」
年より幾らか幼く見える、満面の笑顔。
……これはやばい。何が? いろいろだ。
「それにしても……ラーメン屋の前で……」
「ぅう……それも片倉君のせいなんだからね!」
「悪ぃ悪ぃ、また奢ってやるから」
「うん! ……でも、しばらくあのラーメン屋さんへは行けない……」
……確かに。
ツレと思われてる俺もしばらく行けない。
軽く小突くと、舞岡は笑って見せた。
……やばい、俺もこいつのこの笑い顔には弱いかもしれない。
「どしたの?」
「……何でもない」
のぞき込んでくる舞岡の顔を遠ざけつつ、俺たちは屋上を後にした。
友達が早くもそれ以上になってしまう予感がするが、まぁそれはまた別の話。
作品名:You and I and ...? 作家名:神納舞