第1章 10話 『ボーイミーツガール??』
「失礼なッ!俺でも真剣に考え事くらいするぞ~!今後の俺の行く末とかどうすれば世界が平和になるのか、どうすれば平穏無事に毎日が過ごせるのかとかな」
ヒカリのせいでそれが出来なくなりつつあるからな。…ホント迷惑な話だ。
「ほら~やっぱり変なことじゃない。ハルちゃんの言ってること意味がわからないもん」
まぁ、このふわわん娘には俺の苦悩の意味なんてわからんさ。俺にも未だにわかってないからな。…って俺も何だか混乱してきた。
「まぁそれはいいとしてだ。一緒に帰るんだろ?」
「え…あ、うん。ミナちゃんも茜ちゃんもかえちゃんももう待ってるよ~」
冬姫の後ろをひょいと見るとミナと茜、ついでにかえでが3人で何やら楽しそうに話していた。しかし、ミナも昨日今日でちょっとずつ慣れてきてるようだな。でもまぁ、まだ、ちょっとおろおろしてるけどな。茜とは時間が解決してくれるだろうさ。
でも、やはり問題はクラスのことだな。こっちの方はホントまだ全然慣れないようだった。
話しかけられるとびくーっとしてしまい、更に、おろおろわたわたのノンストップ。
俺たち以外はまだおどおどするのだった。
何とかしねぇとな。ミナが何とかクラスに馴染めるように考えてやんないとな。
俺がそんなことを考えていると、ミナがこっちを向いてるのに気づきにこーっと微笑んでパタパタとこっちに向かってやってくる。
「ヒナちゃ…。…ひゃう!!」
とミナがこっちに向かってくるより先に何かがミナを突き飛ばして俺に抱きついてきた。
…な、なんだ。
俺が抱きついてきたものが何なのか確かめようと視点を下に向ける。-すると
「お、お前はッ!?」
そこには、今朝方見たお子様魔法使いのヒカリの姿があった。
「ヒ…ヒーちゃん?!」
「えへへ~♪ハルトお兄ちゃん♪会いたかったよ~」
本性を隠し、猫を何重にもかぶったヒカリが似つかわしい向日葵のような微笑を浮かべながら俺にしがみついていた。ってちょっと待て、誰がお兄ちゃんだ??
「「……なぁッ!!!」」
クラス全体がまるで石化魔法をかけられたかのように固まっていた。
…って、しまった。
「ち…違うぞ!みんな。こ…これはだな」
「は…春斗…お前」
茜は軽蔑かつ哀れむかのような視線で俺を見つめる。…ってそんな目で俺を見るな。
「お~☆春斗もとうとうこっちに属性変更してしまったか☆これから春斗はロリに生きるのか~いや、実に楽しみだ☆ロリハンターの称号を与えよう☆」
かえでは、何だか楽しそうに意味深ににやにやと怪しげな笑みを浮かべていた。
…って何だその称号は。そんなのいらん。俺を犯罪者に仕立て上げる気か…。
すると、俺の制服の裾をぎゅっと掴む感覚が…。ってもしかして。
俺はバッと後ろを振り向いてみると、案の定、冬姫が泣きそうな顔で俺を見つめていた。
「ハ…ハルちゃん…。…そうなの?…もう、ハルちゃんは…う…うっうっ」
そう言うと冬姫は泣き始めてしまう。…ってなぜ泣く!だから俺の話を…というか俺はもう…何なんだよ!『もう』って!
そして、クラスのみんなもこそこそとしたかと思うと、俺に向けて非難の視線でじろじろと見てくる。…ってだから違うって!!いいから俺の話を聞けってんだ。
「うおおおぉおおおああおおおおおあおおあッ!!!」
突然、咆哮とともに人混みの中心から何かもの凄い音がした。…なんだ。
「は…春斗ぉぉぉッ!!貴様ってヤツはぁぁぁぁあッ!!」
その正体は…暁だった。顔を真っ赤にして怒りを露にし、激昂していた。
…おいおい、また、ややこしいヤツのお出ましだぜ。
「きゃう」
ヒカリはちょこちょこと俺の背後に急いで隠れ、ぴとっとくっつき、さらに、ぎゅっと俺の制服の裾を握り締めていた。
「おい、ヒカリ…くっつくなって、おい。ホントに誤解されちまうって…」
「やだやだ~!だって怖いもん~!でも、ハルトお兄ちゃんと一緒なら大丈夫なんだもん」
どういう根拠なんだよそれは…。
つーかそのキャラやめれ。演技なんだろ??お前はそんなんじゃないはずだ!!
さぁ、本性を現しやがれ。どーせ俺をハメて楽しむつもりなんだろ??
すると、それを見た暁は、ちょっとの刺激で今にも噴火寸前の火山のように顔を
真っ赤にさせ、傍らで怒りを沸々と充填させている鬼神のような面持ちでこう叫ぶ。
「き…貴様ぁぁぁあッ!!ミナちゃんっていう可愛い女の子を手篭めにしておきながら何だ貴様はッ!!今度はこ…こんな…幼い女の子に手を出すとは…。なんて羨ましい…いや、見損なったぞッ!!」
「だから、違うって言ってるだろうが!…っていうか手篭めにしてねぇし!それはお前のありもしない妄想だろうがッ!勝手に俺を危険人物扱いすんじゃねぇッ!!」
俺は、この妄想馬鹿に手加減なしでグーパンチをお見舞いしてやった。
「あだぁッ!!ってぇ、何しやがるんだッ!!」
「目が覚めたか、暁?それなら黙って俺の話を聞け。わかったな?」
「ん、あ…あぁ」
何とか頭がクールダウンしてくれたようだ。…しかし、ヒカリのことをどう説明しよう。
咄嗟の判断とはいえ話を聞けって言った以上、説明しないとヤヴァイよな。…よし。
「いいか、よーく聞けよ。今、ここにいるこいつは、俺とは一切関係ない。あぁ断じて関係ない。ただ、俺の近所に引っ越してきて知り合った…というそれだけの話だ」
俺は冷静かつ堂々と淡々と語っていた。
…まぁ、身内関係とか言うとすぐにバレるからな。近所と言っておけばわざわざ探すってことはしないだろうからな。範囲も広くなるなるからな。
「だから、お前らの考えてるような怪しげな関係は一切ない。っていうか普通に考えてそんなもんありえんだろ」
ホントはお前らも頭ではわかってるんだよな。
ただ、面白半分でそれに便乗しただけなんだよな。そうなんだよな、皆?
俺は希望に満ちた瞳でみんなの方に向き直る。って…あれ?
みんなの視線は相変わらず非難の視線を俺に向けてくる。…ってなぜだ?!
「…春斗、それじゃ説得力ゼロだぞ」
茜は、やれやれと言わんばかりに呆れた表情で頭を抱えて、肩をすくめた。
「はぁ?何でだよ?」
茜がすっと俺の方を指差す。…正確には俺ではなく俺の後ろに隠れているヒカリをな。
一体、どういうことだ?
「だから、こいつとは近所の知り合いの子って言っただろうが!」
「でもな…そんなに懐かれてるのを見ると…なぁ」
何だって…俺がヒカリに懐かれてる…だと?
俺は、バッとヒカリの方に視線を戻した。-すると
「えへへ~♪春斗お兄ちゃん~♪」
ヒカリは、何を思ったか俺の背中にピタッとくっ付いて頬ずりをし、俺が見つめているのに気が付くと、頬を赤らめてもじもじしながら上目遣いで俺を見つめてきた。
このガキ…いつまで演技するつもりなんだ。俺を本気でロリコンの疑いをかける気なのか。
これは、遠まわしの脅しなのか。それとも、これは何かの作戦か。…そうか!作戦か!
俺をヒカリたちに協力させるために、まずは俺の周りから遠ざけさせ、俺を孤立させようって魂胆だな。
それが、いやならば協力しろってことか。…なんて卑劣な。
作品名:第1章 10話 『ボーイミーツガール??』 作家名:秋月かのん