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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章  9話  『色即是空』

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また、ある者は何だか目をキラキラ輝かせて今にも暴走しそうなヤツが。
さらに、ある者はやれやれと肩をすくみ、呆れた表情で俺を見つめていた。

「あの~皆さん、これは…ちょっとした誤解が…」

と俺が弁解をしようと思った瞬間、

「キター☆ギャルゲー・ザ・主人公春斗がとうとうミナタンとラブな状況にッ!!春斗よくやった!!あたしには、もう春斗に言うことは何もない!!感動したッ!!☆☆」

いや、全然ラブじゃないから!!っていうか勝手に俺をギャルゲーの主人公にすなッ!!

「まったくあんたは…節操がないな」

おい、ちょっと待て!!それはどういう意味だぁッ!!

「ハルちゃん…」

「ひぃッ!!」

普段の冬姫ふわりんボイスから大きくかけ離れて、かなりドスが効いた恐ろしいボイスへと変貌を遂げていた。

「ま、待て冬姫!!お前は何か誤解をしている!!俺の話を聞いてくれ!!」

「何が誤解なのかな~ハルちゃん?私が、ハルちゃんが階段から落ちたって聞いて授業中もずっと心配で何一つ集中できなかったっていうのに、急いで来てみれば…」

「だから、誤解だぁッ!!俺は無実だぁッ!!お願いだから俺の話を聞いてくれぇえッ!!」

「いいよ~。でも、それは後にしてくれるかな~」

冬姫はあくまでも笑顔を装い、俺の方にゆっくりと近づいてくる。…その笑顔すごく怖い!あのバケモノよりも数倍怖い!めっさ怖い!!

こうなった冬姫はもう誰にも止められない。よって、これが運命だと諦めるしかない。
って何か理不尽だぁッ!!

「ハルちゃんのばぁぁあかぁぁああ~!!」

「ぎやぁあああああああ!!」

学園全体に俺の断末魔がこだまするのだった。




「ふぁ~。マジに今日は疲れた…」

俺は自室のベッドに大の字に寝転びながら大きな欠伸をしていた。

「しっかし、今日もまた別の意味でいろいろあったよな…」

朝のダルさから始まって、そんでもって余りにもダルいもんだから保健室で休ませてもらおうと思って保健室に足を運んで…。かと思ったらそこは既に謎のバケモノの魔窟と化していて、俺はそこで結界に取り込まれてしまった。

そして、取り込まれるやいなやそのバケモノに命を狙われるわ何だでわけがわからんかったし…。そんで、俺がバケモノの魔法でやられそうになったとき、なぜか俺に再びあの力が使えるようになって…って何で使えるようになったんだっけ?…まぁいいか。

それで、何とか危機を脱して、ふと見るとミナがいつの間にかいて、ミナが加勢してくれてくれたのはいいが、今度は戦闘により煙で視界が悪くなって、俺は応戦するも結局バケモノに敵わなくてやられてしまった…はずだったのだが。

でも、俺は大した怪我もなく、こうやって生きている。…なぜ?確かにあのとき俺はバケモノにやられてしまった。記憶は薄いが俺は空中を舞っていた気がする。何度思い返してもその後の記憶がない。そこからバッサリ消えているのだ。

あ、そうだった。気になって俺は帰りにそのことをミナと話したんだったな。




「なぁ、ミナ」

「はい?どうかしましたか、ヒナちゃん?」

ミナはくりっとした瞳で小首を傾げ俺に向き直る。

「俺、あのとき確かにバケモノにやられたよな?」

「え?あ、はいそうです」

ミナは俺の唐突な質問に驚き、困惑した表情になっていた。

「でもさ、何で俺は大した怪我もなくこうやって生きてるんだ?俺も余り記憶ははっきりしてないがぜってー死んだと思ったのによ」

「私もそれはわからないです。私もあの時倒れているヒナちゃんを見た時もうダメなんだなって思いましたし…」

ミナはあの時のことを思い出しているのか、表情が曇ってしまった。
…きっと俺が知らない間に泣いてしまったに違いない。

「でも、私が魔獣者にやられそうになった時、やられたはずのヒナちゃんが私の前に現れて守ってくれて、あの時はヒナちゃんが生きていて、そして私を助けてくれて本当に嬉しかったです」

魔獣者?
…あぁ、あのバケモノのことか。…ん、でも、ちょっと待て。

「俺が…バケモノを…倒した?」

「はい、そうですよ。魔力が使えないはずなのに、ヒナちゃんはもの凄い魔力であの魔獣者を倒したんですよ。ヒーちゃんとの時とは桁外れの魔力でした。あれ?でも、ヒナちゃん覚えてないんですか?」

ミナは、首を傾げて俺を見つめる。

「あぁ、全然覚えてないんだ…。何度思い返してもあの後の記憶がないんだ。俺は、てっきりあのバケモノはミナが倒したんだとばかりに思ってたぜ」

「記憶がない…。それは妙ですね。なぜでしょう…」

ミナの表情が急に曇り、考え込んでしまった。

「助かったのはいいが、何で記憶を失って…っていうか記憶が欠落してんだろうな。何かワケがあるのか…」

魔力の副作用か?…それはどうだろう。
確かに、俺はミナやヒカリのような魔法使いとは異なる存在で、両方の魔力が俺の身体に流れてるってあいつが言っていたよな確か…。

それが、ヒカリはどうか知らんが、少なくてもフォーリアにとってはシェルリアとの争いを鎮める俺は重要の鍵なワケのようだし…未だに俺はよくわかってないんだが。
まぁ、結論から言うと俺は、普通じゃないってことだ。今までは、まだ半信半疑だったのだが、今日のあれを思うともはや信じざるを得ないだろう。…悔しいがな。

もう認めるしかないだろう。俺は、重要な鍵で、そして…魔法使いであることを…。
と、言いつつも内心まだ間違っていて欲しい、俺は、普通の人間だって思う自分もいる。
だってそうだろ?突然、そんなことを告げられて普通のまともな思考をしたヤツはまず冗談だろ?って考えに達するだろ。そう、普通なら。

これで、はいそうですかと受け入れられるヤツがいるなら、そいつは普通じゃない。
いたとしても、よっぽどのお調子者とかそれ系のネタ好きか、もしくは変人しかいないだろう。

つまり、俺が言いたいことはただ一つ。今の俺にはもう普通の選択肢ができない。
そして、俺は…普通の人間じゃないっていうことだ。
もうこれから逃げることも関係ないと言って知らんぷりすることも叶わない。

なぜなら俺はもう無関係じゃない。
そして、俺は狙われる存在で、下手をすると今日のように誰かに命を狙われるかもしれないからだ。

「…俺は、もう覚悟を決めるしかないのかもな」

俺はそんなことを考えながら、思わず口に出していたのだった。

「え?ヒナちゃん、今、何か言いましたか?」

さっきまで考え込んでいたミナが、ぱっと顔を上げて俺の方を向く。

「いや、何でもないよ。俺もちょっと考え事をな」

「そうですか。でも、やはり、何度考えても私にはわかりません。ごめんなさい」

ミナはペコリと頭を下げる。

「別にいいってミナ。謝らなくても。別にミナのせいじゃないんだし、気にすんなよ」

俺は、ミナの頭をわしわしと撫でてやる。

「はい。ありがとうございます。でも、一つだけ言えることがありますよ」

ミナは急に立ち止まり、真っ直ぐに俺を見据える。

「ん?何だ、その一つだけって?」

「それは、ヒナちゃんが無事でまたこうやってお話することができて本当に良かったことです」