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秋月かのん
秋月かのん
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第1章  9話  『色即是空』

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<死闘からの目覚め>


う…ん。う…うぅん…つぅッ…。
何だ…身体が痛い…つぅッ!ってて…う…ううん…。
俺が目を開くと、そこは見慣れた天井が目に入ってきて、そして、この部屋の独特の薬の臭いが鼻を刺激してきたのだった。

そう、ここは保健室。
首をひねればそこはベッドの上で、俺はなぜかベッドの上で寝ているのだった。
あれ?何で俺はここで寝てるんだったっけ?っていうかいつ、俺は保健室に来たんだんだ?
俺は、取り敢えずベッドから起き上がってみることにした。

「ってて…。くそ、何だこの痛みは…。それに俺は一体………ん?」

何だか俺の膝辺りにほどよい重さの何かが俺の膝にあることに気がつく。
そして、ゆっくりと視線を落として見てみると、そこには、ミナが眠っていた。

「あれ?何でミナがここに?」

俺の思考能力が復活するのにかなりの時間がかかった。
俺はゆっくりと半分無意識な状態にありながらも、状況を把握することにした。

なぜ、俺はここにいるのか?なぜ、気がつくとベッドの上にいたのか?
そして、この謎の痛みの原因についてとミナがここにいることについて…。
それらをゆっくりと記憶の整理を試みて、ようやくあることを思い出す。

そうだ、俺はここに来て、速水さんを探しにあの部屋に入り、そこで謎のバケモノと遭遇したんだ。そしたら、そこにミナがやってきて、そこで、俺はバケモノの攻撃をかわせずにやられちまったんだ。

でも、何で俺はこうやってここにいるんだ?確かに、俺はバケモノに…。
その後どうなったんだ?
俺は、バケモノにやられた後のことを思い出そうと試みた。
だが、何度思い返してもその後のことは思い出せなかった。

「一体何が起きたっていうんだ…」

-そのとき

「お~気がついたかぁ~」

速水さんが奥の部屋から出てきて、いつものようにやる気がない声で頭を掻きながらやってくる。

「速水さん…ってて」

「無理に動かないほうがいいぞ。大人しく寝てろ~。でも、階段から落ちてよくもまぁこれだけで済んだよなぁ~俺の鍛え方がよかったのかもなぁ」

速水さんはうんうんと頷きながらケラケラと笑っていた。

「か、階段から落ちたって、俺がですか?」

俺は、突然のことで思わず間抜けな表情で声を張り上げて驚いてしまった。

「何だぁそれすらも覚えてないのか?もしかして、記憶に異常があるのかもなぁ~。それとも、こいつが普段から頭を使わないだけか…いや、それで筋肉バカになっちまったとか…うーん」

速水さん…俺がいる前でそんな堂々と失礼なことを言わないでくださいよ。
俺だってそんなに言われるとへこみますって…。

「それはいいとして、階段から落ちたってどういうことですか?」

「ん?あぁ、お前が階段から落ちたってそこにいるアミーナちゃんが心配そうな顔をしてここに来てなぁ」

「ミナが?」

「あぁ。それで、俺がその場所までついて行ってみるとな、お前が階段の前で倒れていたってわけだ。それで、俺が面倒だがここまで運んでやったってわけだ。感謝しろ~報酬は美女とコンパで我慢しておいてやろう」

「面倒って…しかも、怪我をした生徒から報酬まで取るおつもりで?!そんなご無体な…」

「まぁそれは冗談だ。でも、アミーナちゃんにはちゃんと礼言っとけよ~。お前のことさっきまでずっと看病してたんだからなぁ~」

俺はミナに視線を戻す。ミナはスヤスヤと眠っていた。
よく見ると目の周りに涙の痕があった。もしかしたら、心配してずっと泣いてたのかもな。
それで、いつの間にか疲れて寝ちまったんだろう。

…そうか。ミナが誤魔化してくれたんだ。
あのバケモノをミナが倒してくれて、それで怪我を負っていた俺を魔法で治してそれでこの状況を作り出してくれたのか。だから、俺は、ミナを見て少し微笑むと速水さんにもう一度視線を戻し、こう答えた。

「わかってますよ。ちゃんと礼言っておきます」

「おぉ~そうしとけ~」

そう言うと速水さんは、いつものように机に置いてあった雑誌を手に取ると、椅子に座って読み始める。俺はもう一度ミナの方に視線を戻す。

「すぅ…すぅ…すぅ…ヒナ…ちゃん…すぅ…すぅ」

「…まったく、ホント、ミナは泣き虫なところは昔と変わらんな。あはは。でも、まぁありがとな、ミナ」

俺は眠っているミナの頭を優しく撫でてやる。

「むにゃ…むにゃ…うぅうん…う…ん…あれぇ?私…寝ちゃったんだ…」

俺が頭を撫でているとミナが目を覚ましてしまったようだった。

「悪い。起こしちゃったか?」

「う…ん…うぅん…ヒナちゃん?」

ミナはこしこしと眠い目を擦って、ゆっくりと顔を上げ、そして、俺の方を見つめる。

「よぉ。悪いなミナ、心配かけちまったみたいで。それに、ずっと看病してたって速水さんから聞いたよ。ありがとうな、ミナ」

俺は、もう一回ミナの頭を優しく撫でてやる。
すると、ミナの目から涙がぽろぽろと流れて、泣き出す寸前な状態になっていた。

「ヒナちゃん…うぅ…ヒナちゃ…ぐすっ…ヒ…うぅう…」

「ど、どうしたんだよ、ミナ?ほら、俺はもう大丈夫だって…な?ほら、っててて、まだちょっと痛むが平気だから」

俺は、ミナを安心させるために無事で平気であることをアピールしてみせた。
-その瞬間

「ヒナちゃぁぁああん!!」

「おわっとと…ってミナ、どうしたんだ?」

ミナが泣きながら俺に抱きついてきた。

「よかった…本当によかった…ヒナちゃんが無事でよかったよ…うわぁぁあん」

ミナは俺の胸で堰を切ったかのように大泣きしてしまった。

「オーバーだな。これぐらいで俺がどうにかなると思うかよ。俺を侮っては困るぞ~ミナ」

俺はミナを抱きとめながらミナの頭をわしわしと撫でてやる。

「うん…うん…」

ミナの頭を撫でていると、速水さんが雑誌を読みながら口を開く。

「あぁそういや、後でお前のクラスのヤツがお見舞いに来るって言っていたぞ。誰だったっけかな…あ、そうそう冬姫ちゃんたちだった」

速水さんがそう言った、まさにその瞬間だった。

「ハルちゃん~!!階段から落ちたっていったけど大丈夫なの??」

絶妙なタイミングで冬姫が保健室のドアをバッと開けて入ってきた。
どうやらそういうことになっているらしい。

「お~い、春斗~一人寂しく妄想のひと時を楽しんでいたかい☆」

続いてかえでが入ってくる。さらに、

「おーい春斗、いくらサボりたいって言っても階段から落ちたって冗談は性格だけにしとけよ。授業中ずっと冬姫が心配してたんだからな」

茜もかえでに続いて保健室に入ってくるのだった。
それはいいが、俺の性格は冗談で構成されているのか。つーか、階段から落ちて(嘘だけど)怪我したことよりもヘコむんですけど!!言葉間違ってないか、おい。

そして、3人入ってきて、今の俺の状況を見て、二の句がつげず固まっていた。
まぁそれはそうだよな。俺を見舞いしに保健室にやってきて、入って瞬間目の前でミナが俺に抱きついてるこの構図を見たら誰でも驚くであろう。

そして、ある者は顔を真っ赤にし、今にも怒りが爆発しそうな勢いで。