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つだみつぐ
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無農薬ということ

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4.無農薬でやさいができるか?




 以前、ある生協の購買担当部長と話し合った事があります。彼は次のように言いました。
 「津田さん、無農薬で作れば本当にいいものができるんですよ。病気も虫も出なくなります。農薬代もかからないんですからね。」
 私は呆れて
 「そうですか。ところでそんなにいいことずくめなら、なぜ百姓はみんな無農薬に切り替えないんでしょうか。」
 その人はちょっと考えて
 「そうですね、何故なんでしょうね。」

また、次のような消費者の声も耳にしたこともあります。「なぜ生産者は害があるとわかっている農薬を使うのでしょうか。自家用のやさいには農薬を使わないと聞きます。店先に無農薬のやさいと農薬のかかっているやさいが並んでいれば誰だって安全な無農薬のやさいを買います。生産者には私達に安全な食べ物を届ける義務があると思います。」

 「店先に両方並んでいれば誰だって無農薬の方を買います。」と言うのは事実誤認です。実際やってみればわかることですが、私達の経験では95%の消費者は(見栄えの良い)農薬やさいの方を買います。だいいち、もし本当にそうなら、消費動向に敏感なお店やスーパーでは無農薬やさいの方が多く並んでいるはずでしょう。
しかし、上記のような意見はかなり多くの消費者がもっているようです。安全なやさいが手に入りにくい(そんなことはないのですが)のは生産者の怠慢、あるいは金儲けのエゴイズムによる、というわけです。ここには状況を自分から変えようとせず「要求」したり不満をぶつけたりするだけの消費者のあり方が透けて見えますが(第一、百姓は消費者の数百倍の農薬を浴びているのです。ハウス農家などは農薬の霧が漂う中で作業をしています。)、そもそも、前提となっている「やさいを無農薬で作る」というのは可能なのでしょうか。

 ときどき、私達の「やさいの会」の会員から次のような電話がかかってきます。
 「農業をやっている知人から(あるいは農協関係者から)『あんたはだまされているんだよ、やさいが無農薬でできるはずがない』って言われたんですけれど、どうなんでしょうか。」
 本当にやさい作りを知り尽くした農業のプロ達は口を揃えて「不可能だ」と断言します。一方、家庭菜園程度のやさいを作っている人からは時に「うちではトマトも無農薬でできていますよ。どうして農薬を使うんでしょうか。」という声を聞きます。
 どちらが本当なのでしょうか。

 私自身の経験では前者の意見の方が「正しい」と思います。
 私達やさい農家はやさいを作ることをなりわい(生業)としています。やさいを鎌や地下足袋、耕うん機などと交換し、その残りを生活面の消費物資と交換することで暮らしています。プロの農家が「無農薬ではやさいはできない」と言うのは、従って、なりわいとして成り立たない、という意味なのです。
 以前、私は「ベと病」で4000kgの玉ねぎが全滅してしまいました。近所の農家の人がこれを見て「津田さん、この病気は出始めに薬をやれば止まるとよ。なして薬ばやらんじゃったとな。」と呆れたように言いました。白く枯れた数万本の玉ねぎを前に立ちつくす私には返す言葉もありません。苗作りから定植、草取りと半年間の労働が無に帰したのですから。
 そこまでいかなくても、無農薬栽培の場合、市場で普通に売れるやさいの量は農薬栽培(普通のやさい作りの事です)の数分の一です。これではなりわいとして成り立つ筈がないのです。

作品名:無農薬ということ 作家名:つだみつぐ