三部作『三猿堂』
史佳は自分が二人を繋げようとした事は認めている。だけどこれなら最初からうまくいかないのは明らかだ。それでも告白に踏み切ったのは自分が煽ったせいかと思いみなみの目を見ると、
「だから言ってるじゃない、私、人の気持ちが見えるんだって」
と言われてハッとした。彼女は口にしなくてもわかっているようだ。
「告白したのは、私がセンパイの事好きだったから。眼鏡のお陰で告白、できたんだ――」
みなみは手に持ったままの眼鏡を掛けた。
「とっても役に立つものと思う、これで思いきりが良くなった。好きになってもらおうと努力もできた――」
口数の少ないみなみの演説に史佳はうんうんと頷く。
「でもホントに大事な人に、自分だけホントの事を隠すのってフェアじゃないでしょ?」
「ま、確かにそうだけどさ」史佳は無意識に自分の耳たぶに手を当てた。
「それを伝えようと思ったんだ、あの時。だけど――。というわけであたし的には『勝負あり』なの。センパイの気持ちを変えることは、できそうにないわ」
みなみは食後に出されたコーヒーに口を付けた。
顔色が見えない史佳でも、今のみなみが言外に何を言っているのかがわかる。彼女は智樹の心に別の人物がいることが許せないのではなく、振り向かせる事ができなかった自分が許せないのだ。そういう意味ではサバサバしている。
史佳にとって一番のオススメを受け入れなかった一番のオススメ相手。史佳の口から本音が漏れた。
「で――、本当は誰のことが好きなの?あいつ」
テーブルから身を乗り出して問い掛ける史佳。みなみはゆっくりとコーヒーカップをソーサーに置いて、みなみはクスッと笑ったあと小さい声で答えた。
「あのね史佳。私、人の考えていることが見えるんだ――」
史佳はみなみにじっと見つめられ、金縛りにあったように動きがとまり、それ以上何も聞けなかった――。そして、正体不明のモヤモヤが頭の中に再び現れた。