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フリーソウルズ

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#10.ラストソング


#10.ラストソング



尾道ライブハウス
狭いステージいっぱいに弾ける「姫君」のメンバー。
熱狂的なファンで盛りあがる会場。
革ジャンを着たイカついバイカーに混じってサイリウムを振る山本。
観客を煽るひめ。

ひめ  「それじゃぁ、最後の曲、行くよォ!」

さらに盛りあがるライブハウス。



夜行バスの停車場
ベンチに腰掛けてバスの到着を待つ裕司。
角を曲がってきたバスがゆっくりと停車場に停まる。

 *   *   *   *

バスの窓の外を景色が流れていく。
バスの座席に身を沈めて、イヤホンを耳に装着する裕司。



ライブハウス
「姫君」メンバーがハケたステージに向かってファンたちが、アンコールの大合唱。

恭一  「アンコール! アンコール!」

革ジャンの間から伸びた細い腕が、恭一の上着の裾を引っ張る。
サングラスにキャップを被った真凛の手である。

真凛  「(押し殺した声で)こっち、こっち。急いで」

ライブハウスの裏手駐車場に連れ出さる恭一。
機材車アルファードに無理やり押し込まれる恭一。
車内にはすでに着替え終えているひめ、綾乃、うららがいる。



夜行バス車内
カーテンの隙間から車窓を見る裕司。
窓の外は、星明かりに山影だけが浮かんで見える山陽道。
イヤホンを外す裕司。
ブランケットを肩まで掛け、目を閉じる裕司。


 **  **  **  **  **


昭和19年呉市二角・磯村商店
店の前を虫取り網を持った子どもたちが駆けていく。
大きな揚鍋でさつま揚げを揚げる磯村。
揚げたてのさつま揚げが金網に積みあがる。
磯村の傍らで桐恵が牛蒡の皮を剥いている。
店の奥で粉を練っている喜勢が磯村に声をかける。

喜勢  「もうそのへんでいいよ、寛治」
磯村  「あと少しだから、母ちゃん」
喜勢  「桐恵さんも・・・」

桐恵  「こっちも、もうじき終わりますから」

手ぬぐいで汗を拭う磯村と桐恵。
黒塗りの高級乗用車が磯村商店の前に停まる。
後部ドアの窓が下りる。
ステッキを支えにして座る桐恵の父が磯村商店を睨みつける。
磯村の笑顔が消える。
固まる桐恵。
固唾をのむ喜勢。
運転手がそそくさと降りてきて、後部ドアを開ける。

運転手 「桐恵お嬢様、どうぞ」

牛蒡を手にしたままその場を動かない桐恵。
桐恵の父が車から降りてくる。

桐恵の父「見合い相手を待たせておる。桐恵。帰るぞ」

磯村の顔を見ながら拒絶の仕草をする桐恵。

桐恵の父「早く車に乗りなさい」
桐恵  「お父様、私は、帰りません」
桐恵の父「お前、父親に逆らうのか」
磯村  「・・・加藤さん」

前掛けを丸めて、地面に両手をつく磯村。

磯村  「必ず、必ずお嬢さんを幸せにしてみせます。ですから・・・」
桐恵の父「現実を見なさい。たかが商売人の子せがれの分際で・・・」
磯村  「お願いします」
桐恵の父「邪魔だ。どけ!」
磯村  「お願いします!」

桐恵の父の足元で、地面に額をつけて土下座する磯村。

桐恵の父「邪魔だと言ってるのが、わからんのか!この身の程知らずめ!」

磯村に向かって、ステッキを振り上げる桐恵の父。
店の奥から金桶が派手に転がる音。


 ◇    ◇    ◇    ◇


夢から醒める裕司。
転げ落ちたスマホを拾いあげながら、明るくなったカーテンの外を眺める裕司。
明け始めた澄んだ空を背景に、なだらかな稜線の丘陵が見える。

  *   *   *   *

疾走する機材車アルファード車内
シート三列目で爆睡している恭一。
二列目の窓から白んできた空の色を眺めるひめ。



三浦ポロニア霊園
花を抱えて坂道を登る裕司。
鉄のアーチに「三浦ポロニア霊園」の文字が飾られている。
眼下に三浦の町が広がり、その先の太平洋が一望できるロケーション。
ゲートをくぐり墓地の中央に続く石畳を歩く裕司。
墓地の中央には、銀灰色の御影石の比較的大きな墓標がある。
墓石に彫刻された名前はない。
墓前に花を添える裕司。
裕司が頭を垂れていると、初老の小男が“おはようございます”と言いながら裕司に近づく。

吉田  「失礼ですが、これがどちらの方のお墓がご存知なので?」
裕司  「ええ、桐恵、加藤桐恵です」

驚きから晴れやかな表情になる吉田。

吉田  「(独白)まさか、こんな日が来るなんて・・・」
裕司  「(吉田の顔を見て)あなたはもしかして、吉田さん?」
吉田  「はい、吉田です。吉田忠雄の息子の忠明です・・・」

そう言いながら裕司の表情をじっと窺う吉田。

裕司  「吉田さんは、いえお父様のほうは?」
吉田  「父は震災があった年に亡くなりました。そのあとこうして先代の社長がお作りになられた霊園のお世話をさせていただいてお
ります」
裕司  「そうでしたか・・・あなたが・・・(感慨深げ)」
吉田  「失礼ですが、先代の緑川社長のご親族の方ですか?」
裕司  「ええ、まあ・・・」
吉田  「父から言われておりました。いつの日か、この墓に花を手向ける人が必ず来る。そのときは案内してあげてほしい、と。でも
こんなお若い方が見えられるとは・・・」
裕司  「僕も、もう一度、ここに来られるなんて・・・」
吉田  「もう一度とおっしゃいましたか? もしかして以前にも?」

微笑みで吉田に答える裕司。

裕司  「それより・・・」
吉田  「あ、そうでした。ご案内しないといけません」

敷地の一角にある白亜の建物の大きな自動ドアが開く。
裕司と吉田が建物に入る。



三浦ポロニア霊園を頂上に据える丘陵の坂をのぼるアルファード。
恭一は依然として爆睡中。
膝に置いたタブレット端末の画面をダブルタップするひめ。
ひめをはじめ、真凛、うらら、綾乃も耳にワイヤレスヘッドセットを装着している。
タブレット画面には3Dポリゴンのレオナードが映っている。

ポリゴン「緑川地所が緑川建設の子会社ってことは理解できたかな?」
ひめ  「急いで。もうすぐ目的地に着いちゃう」
ポリゴン「緑川修吾は緑川建設社長の次男坊で、建築設計士志望だった。しかし戦地から帰還してからは、親元に近づくことはなかった。
しかし父親が他界し相続が発生したとき、緑川は遺産代わりに子会社をひとつ引き継いだ。それが緑川地所で、緑川が最初に手がけた事
業が霊園の開発だった」
ひめ  「それが三浦ポロニア霊園ね」
ポリゴン「そういうこと」
真凛  「それはオレのセリフ」
うらら 「緑川修吾はまだ存命なの?」
ポリゴン「いや、亡くなっている。1998年2月22日に腎不全で」
ひめ  「2月22日っていったら・・・」
ポリゴン「そう、椿谷裕司が生まれたまさにその日。同じ病院で緑川が亡くなり、裕司が誕生した」
うらら 「つながってる・・・」
真凛  「ところでみんな、ポロニアってどういう意味か知ってる? おっとレオは答えちゃだめ」
作品名:フリーソウルズ 作家名:JAY-TA