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フリーソウルズ

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綾乃  「えぇ、何ですか?」
真凛  「ある花の名前」
ひめ  「・・・もしかして・・・きり?」
真凛  「そういうこと」

あくびをしながら目をこすり、起き上がる恭一。
恭一  「どこ、ここ?」

三浦ポロニア霊園のゲートをくぐるアルファード。



三浦ポロニア霊園・祭礼館
社長室に案内される裕司。マホガニーの大きなデスクと革張りの椅子。
書架には学術書が並んでいる。
書物を眺めながら無造作にデスクの上にバッグを置く裕司。
書架の鍵がかかった引き出しからノートを一冊取りだす吉田。

吉田  「これは緑川社長が生前に記されたものです。お読みになられますか?」
裕司  「はい。あとで読みます。でも何が書かれているのかわかる気がする」

社長室を出て長い廊下を歩く吉田と裕司。
突き当りは大きな姿見の鏡になっている。

吉田  「今の社長でさえ、この向こうにある部屋の存在を知りません。加藤桐恵さんを訪ねてきた人にだけ、
      と先代から・・・」

鏡の横にあるテンキーを操作する吉田。
鏡の扉を開く吉田。
扉の向こうは広い空間が広がっている。
南壁面は大きなガラス窓になっている。
空間の中央には小さなガラステーブルとひとり掛けにソファ。
ガラス壁と反対の北壁面は祭壇が設えられ、生花で飾られている。
あらためて南側を振り返ると、ガラス窓の向こうに青く広がる太平洋の風景。
祭壇の中央には薄い布が掛けられた写真。

吉田  「遺影をご覧になられますか?」
裕司  「ええ。あ、できれば近くで」

踏み台に乗り祭壇から遺影写真を、献花台に下ろす吉田。

裕司  「花は毎日?」
吉田  「はい、花の色が褪せる前にすべて取り替えています。もう何十年も」

あらためて生花に彩られた祭壇を眺める裕司。

裕司  「吉田さん、ありがとうございます(頭を下げる)」
吉田  「そんな。椿谷さんとおっしゃいましたか。年はまったく違うのに、あなたを見ていると 、先代の社長を思い出します。私は
加藤桐恵さんを存じませんが、緑川社長はそのソファに腰かけられて、日が暮れるまで何時間もこの部屋に・・・」

玄関の方で「すみませーん」と大きな声がする。

吉田  「どうぞごゆっくりなさってください。来客のようです」

鏡扉から廊下に消える吉田。
祭壇室に残された裕司は、献花台に置かれた遺影に掛かった布を指で持ち上げる。
玄関受付を訪れた女子高生の一団を見て驚く吉田。

真凛  「高校生の男の子来ませんでした?」
吉田  「なんなんですか、君たちは?」
真凛  「だから、ちょっと暗めの男子高校生、見てませんか?」
吉田  「いいえ、来られてません。お引き取りください」

社長室の開いたドアから、デスクの上にある裕司のバッグを見つける恭一。

恭一  「あれ、ユウジのかも」

社長室になだれこむひめたち。

吉田  「おい、君たち!」



祭壇室
遺影写真をガラステーブルに置き、ソファに浅く掛け、写真に話しかける裕司。

裕司  「僕のせいだ。僕のせいで君に孤独な闘病生活を強いてしまった。すまないと思っている。磯村寛治はナウルで戦死した。その
事実を君は受け入れた。でも僕は受け入れることができなかった。今思えば磯村寛治の死を受け入れ、緑川修吾として生きるべきだった。
そして・・・でも、できなかった。桐恵、君とまた幸せに暮らせると思っていた。でも世界はすっかり変わってしまっていたんだ。僕は、
身寄りをすべて失った君が選んだ男を手に掛け、殺してしまった。その頃、君はすでに病魔に侵されていたね。許されることではないこ
とはわかっている。でも、本当なんだ、桐恵。君を心から愛していた。死の間際に君は、僕の手を握って、”迎えに来てくれたのね”っ
て言ったよね。今は僕が迎えに来てほしい。君の元に行きたい。桐恵、君にもう一度会いたい・・・」

遺影を胸に抱いたまま、陽だまりのフロアに崩れ落ちる裕司。


**  **  **  **  **


床に伏した裕司の頭上に、人影が浮かびあがる。
桐恵の父が怒りの形相で、ステッキを振り上げている。
だが、振り下ろすことを躊躇する桐恵の父。
裕司の背中に、庇うように桐恵が覆い被さる。
背中に被さってきた桐恵を振り返る裕司。
”桐恵”と裕司が呟いた瞬間、桐恵と桐恵の父の姿が消える。
桐恵のかすかな重みと体温の名残りだけが裕司の背中から離れない。


◇    ◇    ◇    ◇


裕司の大きな嗚咽が、廊下を通して社長室にまで聞こえる。

うらら 「今の聴こえた?」
綾乃  「聴こえました」
真凛  「はっきりと」
恭一  「似てる、ユウジの声に」
ひめ  「(吉田に)来てるよね。今、どこ?」
真凛  「早く見つけてやんねぇと、あいつ帰って来れなくなるんだよ!」

狼狽える吉田。
声のする廊下に駆け出す真凛。
真凛に続くひめたち。
鏡扉に行く手を遮られるひめたち。
タブレットでテンキーを撮影するひめ。

ポリゴン「このタイプは4桁。暗証番号の第一候補は・・・」

鏡扉の向こうから、物が壊れる音。
ガラスが割れる音。
テンキーを適当に押し続ける真凛。

ひめ  「早く、アルバート」
ポリゴン「OK、暗証番号は・・・」
真凛  「開いた!」

鏡扉をくぐり、祭壇室を見回す真凛。
ソファが横倒しになっている。

真凛  「(周囲を見回し)ユウジ!」

返事はなく、裕司の姿もない。
綾乃が小さな悲鳴をあげる。
綾乃の足元に、ガラス面が割れた桐恵の写真。
壁を覆うカーテンの裾が揺らぐのを見逃さないひめ。
カーテンを開けると、大きなガラス戸がこじ開けられている。
ガラス戸の隙間から風が入りこむ。
重いガラス戸を開ける真凛とうらら。
建物を取り囲む小径が左右に伸びている。
径上に人影はない。
下方から海を海風が吹き上がってくる。
その風に混じって、車の発進音、タイヤ音が玄関方向から聴こえる。

うらら 「ひめ、玄関!」

廊下を突っ切り、玄関自動ドアから表に出るひめ。
大きな黒い霊柩車がハンドルを切り、ゲートを出る寸前である。
真凛たちがひめに追いつく。

真凛  「ひめ、追っかけなきゃ」

首を横に振るひめ。
アルファードの4輪のタイヤ全てが切り裂かれている。

真凛  「くそ!(タイヤを蹴り上げる)」

猛スピードでゲートを抜け霊園の敷地から出ていく霊柩車。
ゲートのポールの上に一羽のカラスがとまっている。
カラスを睨みつけるひめ。
嘲笑うかのように、ひと声鳴き、飛び去るカラス。
ひめの眉間に悔しさがにじむ。









THE END of 1st Season








作品名:フリーソウルズ 作家名:JAY-TA