フリーソウルズ
ると別人にようにアドリブが決まる。人はそれを才能と言って褒めそやしたが、俺は腑に落ちなかった。だから、俺 は答えを探し続けた」
裕司 「答え?」
真凛 「何の答えかってことだろ? そいつが俺にもわからない。だから探し続けた。そんな或る夜、歌舞伎町のクラブパリセーズ。
いつものようにピアノ演奏を終えると、ファンだという客から酒を振る舞われた。とてもカタギには見えなかったが断れなかった。その
時、店に突然5、6人の男が殴りこんできた。怒鳴り声とともに、銃を俺のほう目がけてぶっ放し始めた。俺の記憶はいったんそこで途
切れた。そして次に気づいたとき、俺、どんなだったと思う?」
裕司 「さぁ・・・(首を少し振る)」
真凛 「(幼児口調で)オリワ、ジャジュピアニチュチョ、ナンジョレイチャロ、デチュ、って言ったそうだ。俺は憶えていないんだけ
ど。もの心がつく頃になって、初めて鏡を見たときの、あの衝撃は忘れられない。鏡に映っているのは30歳のジャスピアニスト南條礼
太郎ではなく、3歳くらいのオムツをはいた女児・・・。まさか、女の子だぜ」
裕司 「もしかして・・・君が・・・その、」
真凛 「(頷く)案外、美人だろ」
裕司 「3歳の話、僕のケースとよく似てる」
真凛 「馬鹿言うな。お前は仮にも男だった。俺は女だぜ。30のおっさんがある日突然、フリフリの女の子だ。その日を境に10年
間くらい、どんなに苦しかったか」
裕司 「ずっと南條礼太郎だったんだね」
真凛 「両親に本当のことを言っても、何も信じてもらえない。それどころか、事あるごとに、女の子らしくしなさい。そればっかり
だ。毎日、地獄だったよ。身体はどんどん女になっていくし、学校へ行ったら行ったで、女子の陰湿ないじめに遭ってへこむし」
裕司 「君は、南條礼太郎を探さなかったの?」
真凛 「もちろん、探したさ」
裕司 「見つかった?」
真凛 「YESであるし、NOでもある」
裕司 「どういう意味?」
真凛 「南條礼太郎ってどう思う? ふざけた名前だと思わないか?」
裕司 「・・・」
真凛 「芸名なんだよ、南條礼太郎。その前は桂木敬一郎と名乗っていた」
裕司 「それじゃぁ・・」
真凛 「本名はわからずじまいさ。どこの馬の骨だか。どうせクソ野郎だ。俺は自分が何者かさえ、わからなくなった。アイデンティ
ティの崩壊ってやつだな。性別も、名前も失って、生きる気力を失くした。暗い日々を送って死ぬことばかり考えていた。そんなときに、
七尾ひめに出会った。俺が疑問に思っていたことのすべての答えを、ひめは俺に見せてくれた。俺は、ひめに救われた。ユウジ、お前も
いつか、ひめに救われる日がくる」
裕司 「真凛さん」
真凛 「ん?」
裕司 「思いだしました」
真凛 「・・・」
裕司 「僕、あした、桐恵に会いにいきます」