フリーソウルズ
裕司 「もういい」
恭一 「もういいって。最後まで見ろよ」
裕司 「馬鹿げてる。見るんじゃなかった」
立ち上がって狭い部屋を歩きまわる裕司。
恭一 「きりちゃんって、この間教室で・・・」
裕司 「言うな! キョーイチ、帰ってくれ」
恭一 「帰れって、ひどいな。お前が誘ったんだぜ」
裕司 「ごめん。ひとりになりたい」
団地のゴミ置き場
ビデオテープの入った紙袋を捨てる恭一。
夕焼けが団地の壁を茜色に染めている。
第一農業高校
午前中の陽射しが降り注ぐ敷地隣接菜園。
地元の農園家からイチゴの収穫に関するレクチャーを受ける生徒たち。
生徒の輪の端で牛神うららが熟れたイチゴを一粒ほお張る。
裕司の不在を気にしている恭一。
県立総合病院
志津子のベッドの横に裕司が座っている。
志津子 「夜は足元が暗いんだから、気をつけなきゃ」
裕司 「うん」
ギプスで固定した左腕をさする裕司。
裕司 「母さん」
ベッドの上で微笑みを返す志津子。
裕司 「母さん、僕、最近変な夢ばっかり見るんだ」
志津子 「変な夢って?」
裕司 「きりえっていう女の人が出てくるんだ。きりえって誰なの?」
志津子 「さあ、誰かしら・・・」
裕司 「僕、見たよ。僕が4歳の頃のビデオテープ」
志津子の表情が曇る。
裕司 「4歳の僕に何があったの? 何かあったからビデオテープに残して医者の診断受けさせたんでしょ」
志津子 「違うの、裕司」
裕司 「どうして今まで隠してたのさ。きりえって誰? いそむらかんじって誰なの?」
志津子 「母さんにもわからないのよ、裕司」
裕司 「嘘だ。どうして隠すの?」
志津子 「隠してなんかない。母さんが裕司に嘘をつくと思う? だからお願い。もうきりえさんのことは考えないで」
裕司 「そうしたい。でも出てくるんだ。考えようとしなくても勝手に・・・」
志津子 「ねぇ、裕司・・・」
湧き上がる感情を抑えきれない裕司。
志津子に背を向ける裕司。