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フリーソウルズ

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#6.制御不能


#6.制御不能



夕刻の市街地
暗灰色の雲が空を覆っている。
雲の中で時折、稲光が光る。
遠くでカラスの鳴く声が鋭く響き渡る。
病院を飛び出し、暗い表情で帰路につく裕司。
しきりに強く目を閉じたり、耳を塞いだりする仕草をする裕司。



駅前のスクランブル交差点
雷雲が低く立ちこめ、雷鳴が唸りをあげる。
信号が変わるのを待つ十人足らずの人々。
赤信号に気づかずにそのまま人々の脇を通り車道に踏み出す裕司。
子供をチャイルドシートに乗せた自転車が裕司に並びかける。
クラクションとブレーキ音。
交差点に突っこんでくるベンツ。
ベンツの運転者と視線がぶつかる裕司。
速度を落とすことなく母子が乗った自転車にベンツがぶつかる。
自転車ごと跳ね飛ばされる母子。
自転車の後輪がふらふら歩く裕司のギプスをした腕にあたる。
よろめいて車道脇の植込みの身体を投げ出すように倒れこむ裕司。
ベンツは後輪が浮いた格好で、交差点で右折待ちしていた路線バスに衝突して停まる。
ひしゃげたベンツのボンネットから白煙があがる。
逃げまどう歩行者。
事故車を避けようとハンドルを切ったバイクがスリップし横転する。
そのバイクにタクシーが乗りあげる。
鋼材を積んだトラックが交差点の中央で、どの車両にも接触することなく停車する。
しかし、荷崩れした鋼材が転倒したバイクのライダーの上に落下する。
タクシーのボンネットから火の手があがる。
タクシーの下部から液体が滴る。
額から血を流したタクシーの運転者が路上をさまよう。
悲鳴が重なり合う。
逃げる者と野次馬で辺りが混乱する。
サイレンの音とともにパトカーが次々と現場に到着する。
制服警官たちが道路を封鎖し現場を確保する。
覆面パトカーからおりた佐賀刑事が植込みに倒れている裕司を発見する。

佐賀  「おい、君、大丈夫か?」

裕司の目にぼんやりとした佐賀の輪郭が映る。

佐賀  「しっかりしろ!」

裕司の唇が

裕司  「・・・きりえ・・・」

降り始めた雨が裕司の朦朧とした顔に降りかかる。

 **  **  **  **  **   
 
黒い泥の地面に、口から血を流して倒れている磯村。

緑川  「しっかりしろ、磯村!」
磯村  「緑川、俺は、死ぬのか?」
緑川  「何を言ってる。傷は浅い」

砲弾の飛来音と爆発音がひっきりなしに響く深いジャングル。
時折、機銃に連射音と断末魔のような叫び声が聞こえる。

磯村  「桐恵に・・・」

水筒のわずかな水を磯村の口に含ませる緑川。

緑川  「目を開けろ、磯村」
磯村  「桐恵に・・・」
緑川  「死ぬな、磯村!」
磯村  「桐恵・・・」

囁くように呟く磯村。
顔面の筋肉が緩み、穏やかな表情になる磯村。

緑川  「きりえ・・・」

泥の中に横たわる磯村から飛び退く緑川。
動かなくなった磯村をじっと見つめる緑川。
樹木の間を迷彩色の人影が動く。
爆発音とオレンジ色の火焔が緑川の背後を襲う。
ただ立ち尽くす緑川。
他人事のように戦場の風景を眺める緑川。

上官  「おい、撤収命令だ。早くしろ!」

聞き覚えのある男の命令口調に、我に帰る緑川。
眼前で閃光が走る。
爆発音とともにやってきた爆風の圧力に押される緑川。
泥だらけの草地に弾き飛ばされる緑川。
切り株で左肩を強打する緑川。

上官  「大丈夫か、上等兵」

草地に埋もれたまま、立つことができない緑川。

上官  「しっかりしろ」
緑川  「はい・・・」

閃光の影響で視界が霞んで見える緑川。
防波堤に桐恵が背中を向けて座っている。

緑川  「きりえ・・・」


 ◇    ◇    ◇    ◇


佐賀  「おい、しっかりしろ!」

植込みに倒れている裕司を抱き起こす佐賀。
大きく目を見開く裕司。
首を立てると、佐賀の背後に悲惨な交通事故現場が広がっている。
ギプス固定した左腕を庇う裕司。

佐賀  「君、名前は?」

佐賀の顔を見つめたまま言葉が出てこない裕司。

佐賀  「君、自分の名前、言えるか?」
裕司  「・・・僕は、誰?・・・」

裕司の後頭部に手を添え、振り返って制服警官に叫ぶ佐賀。

佐賀  「救急車!こっちにも救急車を!」

交差点の角に据えられた監視カメラ。
監視カメラが捉える画角の隅に裕司が植込みから立ち上がる姿が映る。
佐賀は裕司の元から離れる。
路上でケガ人に聞き取りをしている救急隊員をつかまえる佐賀。
救急隊員とともに植込みに戻る佐賀。
植込みに裕司はいない。
歩道にも周辺にも裕司の姿はない。
雨が強く降り出す。



ショッピングモール
麻衣子の働く化粧品売り場に、半分雨に濡れた裕司が現れる。
裕司の顔に擦り傷があり、制服のシャツがかぎ裂きになっている。

麻衣子 「職場には来ないでって言ってるでしょ、裕司?」

周囲に気を使って低いトーンで麻衣子が言う。
何か話したそうに俯く裕司。

麻衣子「(裕司の様子を見て同僚に)すみません」

裕司を連れて化粧品売り場を離れる麻衣子。



駅前多重事故現場
歩道に乗り上げているベンツの後部座席で幼児が泣いている。
ベンツの運転者はしぼんだエアバッグの頭を突っ込んだまま動かない。
パトカーや救急車、そして消防車まで出動して道路を封鎖している事故現場。
プリウスに追突したタクシーは泡消火器の泡で真っ白に。
額を手で押さえたタクシーの運転手が路肩に座っている。
スマホや携帯カメラでしきりに写真を撮っている野次馬たち。
鋼材の下敷きになってうめき声をあげるライダーを助けだす救急隊員。
追突されて停車しているバスから乗客が降ろされる。
警察官や消防士たちが総出で乗客を誘導する。
最後に降りたバスの運転手に佐賀が尋ねる。

佐賀  「何があったんですか?」
運転手 「わかりません。気がついたら・・・」

サイレンを鳴らした救急車が続々と到着する現場。
地元新聞社の取材クルーの車も到着し、取材を始める。



ショッピングモール
客入りの少ないフードコートの隅のテーブルに座る麻衣子と裕司。

麻衣子 「何かあったの?」
裕司  「・・・」
麻衣子 「さっき駅前ですごい交通事故があったの知ってる?」
裕司  「うん、現場にいた」
麻衣子 「えっ、現場に?」
裕司  「気を失ってたみたいだけど・・・」
麻衣子 「怪我とかしてない?」
裕司  「それは大丈夫。だけど・・・」
麻衣子 「だけど・・・何?」
裕司  「姉ちゃん、僕、姉ちゃんと血、つながってる?」
麻衣子 「(不意の質問に驚く)何言うの、急に」
裕司  「僕、見たんだ、ビデオ」
麻衣子 「ビデオって?」
裕司  「ビデオテープ。4歳のやつ」
麻衣子 「あ、あれか・・・。あれはね・・・」
裕司  「きりえって誰? いそむらって誰? 姉ちゃん知ってるよね」
麻衣子 「知らないわよ」
作品名:フリーソウルズ 作家名:JAY-TA