落とし物管理局
3、ゆりな
「いい加減にしてください。」
彼女は怒っていた。電話では、男がゆりなに愛の言葉を投げかける。うるさい小バエどもが、死んでしまえばいいのにと彼女は辟易としていた。彼女は少し口が悪い。そしてナルシスト。写真をとるのが趣味なのだが、それが少し変わっていて、自分の写真を自分で撮る、所謂自撮りなのである。そしてその写真をインターネットにあげる。それに周りの人々がリアクションを起こす。それは彼女にとってとてもうれしいもので、どんどんと自惚れていった。
ある男性が自動販売機の前でもたもたしていた。
「ださい男。ジュース二本も買ってにやにやしてるなんて、きもちわるい。」
やはり彼女は口が悪い。
「あ!今日のコーデ撮ってない!」
彼女はすぐにカメラ付き携帯電話を取り出して、ぱしゃぱしゃと写真を撮り始めた。彼女曰く、完璧な写真ではなく少しふざけたり、少し隠したりする写真の方が人気らしい。彼女の数少ない友達の中だけであるが。気に入らない写真だったのか、彼女はふてくされて歩きだした。
「あの男が入っちゃった。消そう。汚い。」
写真の中に先ほどの男が入っていたのだ。本当に口が悪い。
彼女は何を失くすのであろうか。そう、携帯電話である。
「ない!ない!!どこにいったの!あのくそケータイ!どこよ!」
彼女は携帯を失くしてしまった。
10分前までは触っていた。というのも携帯電話を10分離していると、彼女は狂ったように携帯電話を探し始める。どんなときでも例外ではない。片時も離さないのだ。
「まさか。満員電車で…。」
盗まれたのである。落し物管理局はそんな罪人をどうかする事はできない。しかし、なくなったものというのは私たちの管轄になっている。彼女には何か携帯と同じ価値を還元しなければならない。
携帯を失くして一日中、彼女は目を血走らせ、至る所を探した。しかし、無いものはないのである。怒り、悲しみ、焦り、不安、不満…。彼女の手は彼女の意思とは関係なく震えていた。
写真は撮れないし、その写真をみんなに見せることができない。今日の私のファッションを見せることができない。みんなが楽しみにしてるのに。どうしよう。
彼女の想像力は飛躍しすぎて、自分が女優のような感覚に陥っていた。
そして彼女は友達がいない事に気がついた。
常に携帯を見ていた。繋がっていると思っていた。
誰からも話しかけてこないのだ。
そして一週間、彼女は泣いた。どこにもいけず、だれとも話す事ができなかった。
そして、念願の新しい携帯電話が届く日。早々と彼女はインターネットに携帯電話を繋げた。彼女はネットを見て思うのである。
私の事、誰も気にしてない。
その瞬間、彼女の手の震えは止まり、ベッドに新しいままの携帯電話を投げると、そのまま外に歩き出した。
落とし物管理局は彼女に何を与えたのだろうか。私には、それは携帯電話なんかよりももっと価値があるものだと思うのである。