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4, きょうこ


「あぁ。安川先輩。」

彼女は恋をしていた。サッカー部の安川である。彼は真面目ではないが、サッカーは学校一うまく、女性から人気の3年生だ。

移動教室の帰り、安川先輩と廊下ですれ違った時に、動揺して教科書を落としてしまった。そのとき彼が教科書を拾ってくれた。誰でも同じ事をする。しかし、きょうこには衝撃的だった。それからというもの四六時中彼の事が頭を離れない。
「きょうこー!」
はっと気づくと、そこにははじめが立っていた。はじめは彼女の幼なじみ。いつもちょっかいを出す嫌なやつだ。しかし、彼女ははじめが嫌いではなかった。
「なんだよ。」
「また安川さんの事考えてたんやろ!」
なぜ分かった。
「なんで分かったか分からないみたいな顔すんなよ!恋する乙女は綺麗になるからな!!」
うるさいやつだ。いやそうじゃなくてなんで安川先輩だと分かったかが不思議なんだ。
「あはは!悩め!恋する乙女よ!いつでも相談のってやるよー?」
「うるさい。」
嵐のように来て、嵐のように去るとははじめの事を言うのであろう。憎めないやつだ。だから中学の事一回告白されて、断った後だって、こうやって気楽に接してくれる。
 きょうこが2年生の文化祭の日、安川先輩は珍しく一人で外にいた。彼女は気がつくと先輩を追っていた。彼女自身、自分が何やっているか分からなかったのに、汗のにおいを気にしていたのだけを覚えていた。

そして、彼女は振られた。

先輩に追いついて、思い切って言った。
「だいすきです。付き合ってください。」
先輩の答えはノーだった。私は泣いた。やっぱり好きだった。先輩は私を引き寄せ、抱きしめてくれた。先輩のたくましい体は私を包み込み、気持ちがなくても、私は嬉しかった。

「ちょっとこいよ。」

どうしたのかな。

人気のない倉庫の裏で、彼女の初めては彼女の大好きな先輩に奪われた。初めてのキスも。初めてのセックスも。痛さもなにもない。

初めてだけど、分かった。そこに愛なんてない。

(それでもいいの。一瞬だけでもいい。私は先輩に必要とされたい。)

彼が絶頂を迎えるとき、彼女は泣いた。本当に泣いた。
これが終わったら、彼は彼女を必要としなくなる。

彼は周りを気にしながら、すばやく片付けていたが、彼女は動けなかった。彼女を後ろから抱きしめ、彼はそっとつぶやいた。
「泣かないで。よかった。ちょっと乱暴だったかな。ごめんね。でも本当によかった。」そんな嘘の優しさでも、そのときの彼女は嬉しかった。

それから何度も安川先輩に会った。何度も何度も。
一回でも断ったら、もう会えない気がした。もう捨てられると思った。
だんだんと慣れてきて、そんな愛のないセックスでも気持ちよくなってきた。

「うーい。どしたん?最近なんか変じゃない?」
はじめが話しかけてきた。なんだかとっても暖かくなった。でももう何も言えなかった。
「何も無いよ。あんたには関係ないし。」
「そうだけどよ、最近おかしいよ。」
「だから関係ないっていってんの。いちいちうるさいって。本当あんたってうざい。」
「でも、あ、うん。」
言った後に後悔した。
「あんまり自分を傷つけないで。俺、お前の事すき…」
言い終わる前に走って逃げた。聴きたくて仕方がなかった。好きって一言聴きたかった。でももう聴く資格なんてない。

それからも安川先輩と何度もした。学校でもしたし、外でもした。興奮して、気持ちよかった。先輩が卒業して、彼がこの町を離れると聞いたのは、彼からではなく友達からだった。いつのまにか離れていった先輩に連絡がつくことはなかった。


3年生の一年間はあっという間に過ぎていき、あっという間に卒業式。
そこにははじめがいた。会わないでいこうとすると、彼は彼女の肩をつかんで止めた。
「逃げんなって。」
「なによ。」
「安川先輩とお前の事知ってたよ。」
「だからなに。」
「それでも好きだった。お前の事。」

そのときは彼女は気づいた。私も好き、だと。

「はじめ… 私も…す」

「ごめんな。」

この時彼女は初めて本当の涙を流した。



何かを失くす事は何かを得る事で、何かを得る事は何かを失くす事だとしたら
彼女は何を得て、何を失ったのか。ここでその全てを話すのは少し多すぎると思う。
作品名:落とし物管理局 作家名:荒岸来歩