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萌葱色に染まった心 3

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 志穂はいつまで誤魔化しきれるか不安で仕方なかった。ここで走って逃げれば、おそらく男は喜んで追いかけてくるだろう。逃げることは叶わない。徹、一体なにやってるの。早く来てよ。
 
「やめろ」
「徹!」
 待ち望んでいた声が聞こえた。
 体に少し傷を負っているものの、元気な姿で現われた。徹は志穂をかばうように彼女の前にやってきた。
「なんだお前は?」
「どんなことうでもいい。この娘に手を出して見ろ、ただじゃおかないぞ」
「ほう、見たところ、ただのガキのようだが、このオレに向かって、どうただじゃおかないか。見せてもらおうか」
 徹は一瞬のためらいを見せたが、すぐに決意するとペンダントを右手で握りしめた。月明かりに浮かび上がる男のシルエットを見据えながら、徹は例のペンダントを力一杯握りしめた。
「ほう、ニーベルンゲンの忘れ形見か。面白いものを持っているな?」
「剣よ!」
 鬼を見据え、徹は叫んだ。
 だが、ペンダントは――宝石は武器に変わることはおろか、光り輝くこともなく、ただ整然とそこにあった。
「それで、どうするつもりだ?」
「なっ!」
 徹が驚きの声を上げる。
「どうした? それで終わりか?」
 彼の体がふわりと空に浮いた。それはまるで、鳥の羽のように軽やかに、ゆっくりと大地に降り立った。徹は焦りを覚えながら後退る。
 なぜだ。なぜ変わらない。いったい何が足りないんだ。オレに足りないのか? それとも、宝石のパワーが? 徹は自問した。すがる思いで二度、三度と試してみたが、やはり宝石に変化にはみられなかった。
「どうした、小僧。怖いのか?」
 徹は後退りながら、ペンダントを握った手に力を込める。
 やはりこれには頼れない。
 徹は拳を突き出した。右、左それからフックにジャブ。続けざまに放った回し蹴りをも男は悠々とかわす。時には受け流し、また、時にはカウンターの一撃が徹を襲う。
 焦りの色が浮かぶ徹とは対照的に、男は余裕の笑みを浮かべていた。
「人間にしてはなかなかやるな。失うには惜しいくらいだ。だが、それも終わりだ」
 男が渾身の力をこめた一撃が、徹の鳩尾を襲う。徹は大きく飛ばされて、崖の近くに転がった。
「少しは楽しめたよ。人間が相手というわりにはね」
 月夜に照らされ、男の微笑みが闇の中に浮かび上がった。
「人間、最後に一つだけ聞いておこう。名は何という?」