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萌葱色に染まった心 3

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 大したダメージはなかったように男は立ち上がる。口の端から流れたわずかな血を拭い、楽しそうな笑みを浮かべながら、鬼は徹と対峙した。
 余裕のある鬼に対し、徹には余裕はなかった。先ほどのカウンター気味の一撃で仕留められなかったのは、徹にとっては大きな事だった。二度目、三度目の軌道は読まれ、ことごとく封じられ、あるいは紙一重でかわされる。逆にカウンターの一撃が次々と徹に襲いかった。徐々に追いつめられていく。いつしか形勢は逆転していた。

 追いつめられながら、徹は逆転の一撃にかけていた。闘志は失われていない。いや、ますます高まるばかり。その様子は鬼も気づいていた。とうとう崖際まで徹は追い込められた。
「チッ」
「どうした、もう後はないぞ」
「まだだ。まだチャンスは残っている」
「どうかな? まあいい。後は死して後悔することだ」
 鬼が飛びかかる。
(もうこれしかない)
 徹は意を決して鬼との間合いを一気に詰めた。急な攻撃転換に、男はとまどいを見せた。
 徹にはその一瞬で十分だった。空中で胸ぐらをつかむと、自身との体勢を一瞬で入れ替える。投げ技だった。空中での背負い投げだ。足場がないから踏ん張りは利かない。その代わりに、男を蹴飛ばした。
 徹は勢いあまって大地に体を打ちつけた。だが、男の方には足場はなかった。何が起こったか分からないまま、男の体は重力の意図に従い、崖下へと消えていった。
「か、勝った」
 崖下をのぞき込みながら、徹は大きく息をついた。だが、勝利の余韻に浸っている暇はない。志穂の後を追わなければ……。鬼は他にもいるかもしれない。徹は不安を覚えた。

 志穂はあれからわき目もふらず真っ直ぐに走り続けていた。志穂は木の陰に身を隠し、呼吸を整える。
 もういいかな。
 そっと顔を出し、今来た方をのぞいてみたが、誰も追ってくる気配はない。志穂は胸をなで下ろしながら、大きく深呼吸をした。そして、徹のことが急に心配になってきた。
 よくよく考えてみると、徹も人間である。自分を守るために戦ってくれているのだが、徹に鬼と同等の力があるかというと、そんなことはない。人よりも少し能力が高いくらいで、全力を出した鬼と真っ向から勝負して勝てる確率は、やはり他の人間と変わらないだろう。