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萌葱色に染まった心 3

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 男は勢いを殺され、人の姿をしたそれは、近くにあった木に体をぶつけ、地面に倒れ込む。だが、すぐさま体勢を立て直した。やはり、徹の予想通りだった。人ではなく、鬼のようだ。徹も体を起こすとすぐに戦闘態勢を整えた。
「徹」
「志穂、少し離れてろ」
 志穂が頷き、徹と少し距離をとる。
「人間にしては反応が良いな」
「お前、鬼か」
「ほう、我らのことを知っているのか。面白い人間、お前には我を倒す力があると思うのか」
「さあ、どうかな。本気で戦うのは初めてなんでね。だが、俺には守るべきものがある。ここで負けるわけにはいかない」
 徹は振り返り、志穂に微笑みかけた。
「徹……」
 その目は「大丈夫だ。お前は逃げろ。また後で会おう」と語っているようだった。
 一瞬の躊躇の末、志穂は走り始めた。夜道だから全力疾走するわけには行かないが、なるべく早く、この場を離れなければ……。側にいるだけでは、徹の足手まといにならないためにも。
 徹は志穂が行くのを見届けて視線を元に戻した。
「お前は行かぬのか?」
「俺が後を向いた瞬間に殺すつもりだろう? そして、志穂に襲いかかるはずだ」
「ふん。いい判断だ」
 徹は拳を構えた。ニーベルンゲンの宝石を剣に変えることも考えたが、まだ初めて宝石を武器に変化させた時以来、一度も成功していない。できないものに頼るよりも、今の自分に確実にできることで切り抜ける。それが徹のやり方だった。
 先に動いたのは男の方だった。徹の予想より早い動きで、一気に間合いを詰めてくる。徹は慌てず一歩後退しながらタイミングを計った。突き出された拳を紙一重で交わし、カウンター気味に加えた一撃は、男の予想以上の反応に頬をかすめた程度に過ぎなかった。
「人間にしてはいい反応をしているな。これは、オレも本気を出さなければならないか」
 薄ら笑いを浮かべながら、鬼の男が呟いた。徹は背筋に寒気を覚えながら、気合いを入れ直す。
 今度は徹が先に仕掛けた。鳩尾を狙った一撃は、大きく後ろに跳んでかわされた。大振りだったので、隙が生まれた瞬間を狙い、男が一気に間を詰める。
 だが、それは徹のねらいだった。続けざまに放った回し蹴りが、見事に男をとらえた。予測していなかった右側からの強烈な一撃に、男はたまらず吹っ飛んだ。大木に体を打ちつけ、ようやく止まる。