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萌葱色に染まった心 3

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 水際に来ると、さっと足場を確保してハンカチを水で濡らした。起きあがって戻ろうとしたとき、足場がぐらつく。転けないようにバランスをとる徹だったが、ポケットから地図が落ちて水に浸かった。
「しまった」
 流れはじめた地図を拾い、徹は志穂の所へと戻った。
「手を出して」
「うん」
 素直に手を出す志穂。
 徹は傷口の汚れを丹念に取り除いた。
「地図、濡れちゃったね」
「ああ。仕方がない。広げて乾かせば大丈夫だよ。きっと」
 徹は破れないように地図を広げてみる。
「これは?」
 うっすらと絵が浮かび上がってきた。時間が経つにつれ、その絵は次第に鮮明になっていく。滝の絵だった。地図の真ん中に滝の絵が浮かび上がっている。これが手がかりになるのは、まず間違いないだろう。
「ひょっとしてこれ……」
「アジトの入り口の場所?」
「だとしたら、滝のある場所を探せばいいな」
 たった一つとはいえ、手がかりを見いだした二人は、俄然やる気がでてきた。立てるかと問う徹に、志穂は笑顔で頷いてみせる。徹の指しだした手を借り、志穂は立ち上がった。
 二人は歩き始めた。仏道の修行などに使われる滝から、小さな釣り橋の架かった小川の流れる窪地の少し上流にある滝と呼ぶにはちょっとお粗末なものまで、思いつく限りの場所に足を運んでみた。だが、どこにもそれらしい入り口は見あたらなかった。
 考えてみれば、人目に付きやすい場所に、秘密の入り口があろうはずがない。とすれば、登山ルートからはずれたどこかに、それがあるはずだ。いつしか日が暮れ始め、夜を迎えようとしていた。
 一日中登っては降りるという行為を繰り返していたので、二人とも疲労はピークに達していた。普段使わない筋肉を酷使しているのだ、明日は筋肉痛になること必至にちがいない。
「どうする? 頂上の店も閉まりはじめたみたいだし、ずいぶんと暗くなってきた。下山してどこかで休んで、また明日にするか?」
「私は……」
 志穂が言いかけたとき、背後で何かが動いた。気配が近づく。徹は振り返るが、そこには何もいない。
 鬼につけられていたのか。徹は息を飲み、気配を感じ取ろうと、意識を集中させた。何かが茂みから飛び出す。
 徹はオーバーヘッド気味にキックをした。波の反射神経ではない。徹のキックも間髪のところでダメージが少なくなるように防御策をとったようだった。