萌葱色に染まった心 3
「オレは、この宝石の秘密を解こうと思う。どうしてあの時、刀になったのか。また、いつでも刀に出来るのか。もし、また遭遇したときに使えなければ、意味がないからな」
「そう……」
やがて、フェリーは港に着いた。二人はひとまず船を下りると、適当な場所で行き先を再度確認すると、徹は志穂を後ろに乗せてバイクを走らせた。その後ろをつけていく車があった。徹はミラーで確認したが、ただ同じ方向に向かうだけだろうと思って気にもとめなかった。
山の麓にバイクを置いて、必要な荷物を手にして二人は山を登り始めた。
「それで、どうだったの?」
「なにが?」
「宝石の秘密。解けたの?」
「いや、解けなかった」
「えっ?」
「分からないんだ。なぜ、あの時変化したのか。そして、今度は変化しないのか」
「そうなんだ」
「今、あいつらに遭遇したら、おそらく闘うことはできない。だから、遭遇しない事を祈るしかない」
「そうだね。大丈夫だといいんだけれど……」
組織の入り口があるとされるのは、山のどこか。印も地図も曖昧なので、歩いて探し出さなければならない。気の長い話かもしれない。あるいは、一日中歩き続けることになるかもしれなかった。だが、志穂はどうしても行かなければならない所だし、行ってみないことには事態が好転するとは思えない。
だが、またここは普段から人が多く山登りを楽しんでいる山だ。普通にコースを歩いていても、決して入り口が見つからないだろう。おそらく、どこかでルートをはずれなければならない。
いったいどこだ? 地図を見ながら、徹は必死に辺りを見渡した。それらしい場所。それも、おそらく人のあまり集まらない場所のはずだ。目立つ場所に入り口があるとは、徹にはどうしても思えなかったからだ。
「きゃっ」
小さな悲鳴と重いものが倒れる音がした。志穂が足を滑らせ、転んだようだ。
「大丈夫か?」
「うん」
徹の問いかけに答えた志穂の表情は、答えとは異なっていた。しかめっ面で、しきりに左手をかばっている。転んだ際におそらく何かでひっかいてしまったのであろう。幸い大した怪我ではないのだが、切り傷が縦に走り、血がにじんでいた。
「ちょっとここで待ってろ」
徹はハンカチを取り出して、すぐ側に流れていた小川に向かった。足場を確認しながら、しかし、素早く道なき道を下る。その手際よさに、志穂は驚いていた。
作品名:萌葱色に染まった心 3 作家名:西陸黒船