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萌葱色に染まった心 3

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 上着のポケットをまさぐると、すぐにそれは見つかった。志穂はそれを持って部屋を出た。食堂の入り口にある自販機で、当たり障りのないコーヒーを二本買って戻ってくる。徹の正面に一本。そして、自分のコーヒーのプルタブを起こそうとした時、徹はようやく自分の世界から帰ってきた。
「思い出した」
「えっ、本当?」
「桑の葉だ」
「桑の葉?」
「そう。東京で桑の葉といえば、郊外にある山、高尾山だろうな。ほら、その地図にも山が描かれている」
「本当に? でも、それだけで分かるものなの? 大丈夫?」
「ああ。ほぼ間違いないだろう。それにほら、桑の里・高尾ってどこぞの豆腐メーカーのラベルにも書いてあるだろう?」
 意味が分からず、キョトンとする志穂を後目に、徹は得意げに言った。
「そうなの?」
「なんだ、知らないのか? オレんちの豆腐や油揚げは、いつもそのメーカーの商品だぞ」
「いや、そんなの知らないって……」
 志穂は大きなため息をついた。そもそも、あたしは九州で育ったんだってば。知らなくて当然でしょう? と、彼女は心の中で付け加えた。
「でも、まあ闇雲に探し回るよりはいいだろう? もし、そこになければまた別の所を捜すさ」
「そうね。はい、コーヒー」
「ああ、ありがとう。ちょうどコーヒーが飲みたかったんだ」
 志穂の差し出したコーヒーとお釣りお受け取り、徹はプルタブを起こした。一口で半分ほど流し込んだ時、徹は不思議そうな顔をしながら訊ねた。
「なあ、何でコーヒーがあるんだ? それと、お釣りも……」
「まあ、それはそれ、気にしないで!」
「お前、もしかしてオレの財布から勝手に? そういえば、金持ってなかったもんな」
「ああ、そんな、怒らないでよ。のど乾いたかなって、思ったから気を遣って……」
「その割には、お前も飲んでるよな」
「うっ」
 するどい。志穂は乾いた笑いを浮かべつつ、徹の問い詰めをのらりくらりとかわす。そのうちに、徹はあきらめたようだった。
「今回はもういい。買ってしまった後だからな。だけど次は……」
「はい。ごめんなさい」
 ため息をつき、あきらめた徹に、すかさず志穂は一言詫びを入れたのだった。
「とにかく、東京に着くのは明後日か。それまではゆっくりと出来るだろうな。お前は、その間どうするつもりなんだ?」
「私は、別に……」