美脚トンデモ3人娘(前編)
浜茶屋の親父がアイスクリームを運んできた。
「相変わらず元気だね、良く発育してる。ところで試合はどうだった?全国大会に行けるか?行くのならオッちゃんの奢り!」
試合のことを聞かれるとミホは固まる。うな垂れて応えた。
「・・負けました。」
ア~ァ、サエたちはため息をついた。
目の前にだだ広い地方の海が広がっている。人気もなく波もなくマッタリして平穏そのもの。拡声器からmikeの『ブルーライトヨコスカ』が流れていた。石田あゆみの『ブルーライト横浜』をもじった曲で、スローテンポで歌いやすい。
「♫真夏のマリーナ 夜が更けて 恋人達 クルマとめてエッチしてる
ハートはドキドキ どうしよう
単純ね その気になる もういきなり なんだから
ああブルーライト ヨコスカ 街の灯りがとてもきれいね♫」
アキがアイスを舐めながらウットリ顔である。
「いいな、マリーナに車を停めてエッチする、いいな~」
サエが突っ込んだ。
「でもエッチって何よ?・・分かる?」
ミホが代わって応えた。
「抱き合ったり、キスしたり、いちゃつくことでしょ。」
サエは不満そうである。
「それだけ、それでお終い?」
ミホは赤くなって答えに詰まった。アキがニヤリと笑った。
「・・すべて彼にお任せするの。エッチしたいな~。」
「すべて任せる?」
サエはムッとして続けた。
「ここを出るのよ。都会の大学生になって一杯エッチする。大人の女になって男をブイブイいわせるのよ!」
アキが手を挙げた。
「賛成!ここを出るの大賛成!」
アイスを舐めているミホが話題を変えた。
「・・勉強はかどってる?私たち、特別推薦は無理でしょ。受験で頑張るしかないと思うんだけど。」
サエが背筋を伸ばした。
「英語講座はしている、英語は絶対いるでしょ。夏休みは図書館で勉強するつもり。」
ミホは尊敬の眼差しである。
「サエは偉いな、切り替えが早いんだから。私は部活が終わって気が抜けちゃった。何もする気にならなくてボ~としてる。」
今度は吉幾三の『オラ東京へ行くさ』が流れた。
「♫ハア、テレビも無え ラジオも無え 車もそれほど走って無え、
お巡り毎日グールグル 電話も無え、ガスも無え、バスは一日一度来る
オラこんな村イヤだ オラこんな村イヤだ 東京へ出だ♫」
剽軽(ひようきん)なアキが立ち上がってタオルを巻いて真似をした。
脚の長い女子高生がカバンを背負ってがに股でキョロキョロする。アンバランスで滑稽、可愛くてエロイ。腹を抱えて笑う2人、イイぞイイぞ、親父も手を叩いた。
「さすがバレー部、若さがはち切れそう!ピンクレディーの再来や。ピンクレディ知ってるか?」
3人娘が口々に応えた。
「知ってる、知ってる。ピチピチパンツのお姉ちゃん。」
「幼稚園で流行った。」
「今でもカラオケで歌ったりする。アキが上手。」
親父が真顔になった。
「・・そこで相談や。オッちゃんはビーチ祭りの実行委員してるが、祭りの本番は演歌歌手で年寄りが多い。ビーチやのに若い子が集まらん。演歌歌手は地元出身やから断われんが、前座を若い子でパ~ッと盛り上げたい。あちこち声掛けてるんやが、君らも出てくれんやろか。」
「君らは外人顔負けや。背が高こうて手脚が長い。健康なオーラが出ている。君らが出るだけでパ~と明るくなる。カラオケでエエ、ピンクレディーみたいに元気にやってくれんやろか。」
「・・もちろんタダやない、県の補助事業やから出演料を出す。高校最後のエエ思い出になるのとちがう?・・今日はオッちゃんの奢りや。」
3人ともカラオケが好きだったし、全国大会というイベントをなくしたから、二つ返事で引き受けた。持ち時間は3曲15分くらい、問題は誰のカラオケをするかであった。
ピンクレディーをやりたかったが彼女らはデュオ、3人トリオとなると当時流行っていたmikeしかなかった。mikeはスローテンポだけどピンクレディー風にアレンジすれば面白くなる。
その夏、彼女らは受験勉強に飽きるとカラオケに籠もって練習したのである。
三
ビーチ祭りは夕暮れの浜で始まった。
涼やかな風が吹いて夏の暑気が和らぐ頃、住民が夕涼みがてらに集まってくる。特設ステージは天蓋付きで中央にデ~ンと大スピーカーが置かれ、消防団、漁協、農協、青年団、婦人会の大旗がはためいていた。
演歌歌手がメインで年寄りが多いと聞いていたが、けっこう家族連れやカップル、若者や子供もいた。地方はライブが少ないから暇つぶしにやって来るのだろう。小旗やメガホンをもった応援団もいて、三々五々シートを敷いて団欒しながら開演を待っている。定刻を少し過ぎてバスガイドぽいお姉さんが現れた。
「今晩わ、司会を務めます××で~す。今年も沢山集まっていただきました。アリガトウございま~す。最初に実行委員長のお言葉を頂きま~す。」
実行委員長のどうでもいい挨拶が終わると、お姉さんが前座のカラオケを始めた。
「お待たせしました。それではカラオケ大会を始めま~す。今年から出演を若者に絞りました。一番目は○○農業高校の××クン、尾崎豊を歌いま~す。」
テカテカのリーゼントがギター片手に現れた。
「オス!みんな元気か!」
北島三郎のような気合いを入れると『15の夜』を歌い始めた。興奮したせいか、出だしから高いキーですぐに絶叫!喚くばかりで何を歌っているのか分からない。呆気にとられる会場から、「ヤッちゃん押さえて!」、「ヤ-坊落ち着いて」と声援が飛んだ。
2曲目は差し入れドリンクでひと息つき、同情した観客の手拍子に助けられて歌い終えたが、最後の『ILOVE YOU』でも手拍子は止まず、甘いバラードが宴会音頭で終わってしまった。尾崎豊が宴会音頭?!うなだれて退場するリーゼントに観衆は温かい拍手を送った。
「ありがとうございました。卒業後はラッキョウ農家を継がれるそうです。続いて幼稚園の先生××さんが森高千里を歌いま~す。」
小太りのお姉さんが元気よく飛び出した。森高千里の『ファイト』や『気分爽快』をピョンピョン跳びはねながら歌う。ハイテンションでリズミカル!最初はエアロビクスみたいだったが、子供たちが参加すると『お姉さんといっしょ』になった。小旗が振られエールが飛んだ。老若男女が楽しむ地域の祭りにふさわしい盛り上がりだった。最後にジャンプしたときヒールを折ったが、それも愛嬌!会場は明るいムードに包まれた。
そして、いよいよ3人娘の出番、司会のお姉さんが紹介した。
「次はバレーの名門○○女子高校の3人組で~す。隣町から出場してもらいました。全国大会を逃した悔しさをぶつけま~す。」
円陣を組んで気合いを入れると、試合のときのように飛び出した。
ショートカットに大きなリボンネック、可愛いチョッキにミニスカート、見事に伸びたカモシカ脚。ウオ~!驚きとも歓びともつかぬ声があがった。1曲目は『思い出の九十九里浜』。
作品名:美脚トンデモ3人娘(前編) 作家名:カンノ