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料理に恋して/カレー編

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         20

「ライオンカレー」

 料理の中でも
 うちは特に
 カレーを尊敬していた。

「百獣の王?」

 うちは
「ははー」
 とひれ伏する。


         21

「どっしよっかなぁ」

 もしかして、冗談じゃなく、
 本当にこっちに鞍替え?
 恐怖のあまり、
 うちは尋ねられない。

「どっしよっかなぁ」
 加奈子がニタニタしてる。

「ね、中浜、どうしよっ」
「な、何が?」
 うちは空とぼける。

 エサになった気分。


         22

〈中浜のあどけない笑顔には御用心〉
 って書かれたメモ用紙が
 背中に貼られていた。

 見つけてくれたのは
 図書館でバイトしてる山田さん。

「これ、これ」
「あ!」
「新しいファッション?」
 うちは加奈子の仕業に
 怒りもせず、悲しくもならず、
 迷わず、クスッとしてしまう。
「山田さんって生真面目と
 思ってたから」

 結果的にそれがきっかけで、
 距離がぐっと縮まる。

         *

 実家が八百屋さんを
 営んでることを知る。
 うちは羨ましくて、
 鼻の下がぐーっと伸びる。

 男子がエッチな写真を
 見るような興奮がある。

「タマネギも色々あるの?」
 うちは中腰になり、
 身を乗り出している。
「な、何種類もあるわ」
 びびった山田さんに、
 うちはがばっと抱きついてしまう。

         *

「弟は中学出て、働いてて、
 私の方が夜間だけど、
 大学に行かせてもらったから、
 親から期待されてて、
 頑張んなきゃいけないの」

 甘ちゃんの自分が
 申し訳なくなる。
 うちと山田さんは
 ハイタッチする。

 世界の出会う音がする。


         23

 カレーの夢を見る。

「ああ、幸せ」

 それだけで幸せ。