料理に恋して/カレー編
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うちは大学通りの店で、
ケータイを解約して、
カメラとしてのみ使う。
最初に撮ったのは
口を大きく開けた、
自分の顔。
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「とぼけた顔がいいよね」
男子が言ってくれないから、
自分で言う。
「おっぱいの大きいのに
匹敵する魅力」
好きな顔ってのがあった。
男前なのは認めるけど、
全然、いいと思うけど、
好きな顔ってのが
それとは別にあった。
他の人から見れば、
「普通」
でも、好きな顔。
うちにとっては
ストライクど真ん中って顔。
「そんなことを言ってくる、
男子、現れないかなぁ」
むっちり肉付きのいい、
女子を好む男子がいるように
「とぼけた顔が好きな男子、
どこかにいないかなぁ」
うちは芝生の上を
コロコロ、横に転がる。
のり巻きの具に
なった気がする。
「おっしゃれー」
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関大料理学部は
もう開店営業していた。
必死になったり、
気張ったりしないのが取り得。
一生懸命マイペース、
一生懸命ほんわりん。
何かがあるって、
何かがなかった。
何かがない代わり、
別の何かがあった。
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うちはノートに
へのへのもへじを描く。
ないものねだり、
してもいいけど、
しちゃいけなかった。
ないものねだり、
しちゃいけないけど、
してもよかった。
うちはお尻をぽりぽり掻く。
*
やり手とか、
全身で頑張ってまーすって
感じの人に
うちは気後れしてしまう。
「すごいなぁ」
とは思うけど、
かなり苦手。
うちはノートに
へのへのもへじを描く。
お尻も描く。
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家じゃ食べたことのないような、
「カレーにしましょう」
メニューの相談会は
そうやって始まった。
「火曜日はカレーの日で、
新しいカレーの創作」
それを週代わりで出すことに決まる。
「どんなカレーにする?」
料理自慢の女の子らが
あれやこれやと話し合う。
家が近所の音大生の子までいる。
うちは言い出しっぺだけど、
リーダーなんかじゃなかった。
みんなからの聞き役で、
それをまとめていくだけ。
窓からの風が気持ちいい。
眠たくなる。
うちがいなくても
物事は進む。
安心して、寝てしまう。
*
突っ伏していたテーブルから
顔を上げ、起きると
「気張らないところがいいのよねぇ」
と言われてしまう。
うちは照れ笑いする。
「中浜ががつがつしたら、
きっと、中浜じゃないわ」
と理解者がいて、
うちの目はうるうる星人に。
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うちはがつがつ、綾取りしてみる。
疲れてしまう。
ジェットコースターより
芝生の上でコロコロしてる方が
断然、好きだった。
こたつの中で
みかんの皮をむくのは
幼稚園からの特技。
むいては姉や父母に
「はい」
って渡すのが好きだった。
むいては友達やその親に
「はい」
って渡すのが好きだった。
*
平和で退屈な時間を
一緒に過ごせるのが
本当の友達。
「名言だわぁ」
大正時代の詩人さんが
作ったとは思えない。
「もしかして、大正時代、
って平和だった?」
突然、うちは
メニューを思いつく。
ノートにイラストを
いくつか走り書き。
明治カレー、大正カレー、
「昭和カレー」
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の