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料理に恋して/カレー編

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         7

 出資金が一人一万円、
 だったこともあって、
 面白がってくれたお陰で、
 予想外に盛況で、
 お金は瞬く間に集まった。

 同じ大学の学生、
 だってことも幸いした。
 うちは大教室の真ん前で、
 えへら笑いになる。
「いいお客さんにも
 なってくださいね」
「一石二鳥かよ」
 と大勢の中から、
 好意的な野次が飛ぶ。

「特典は?」
「試験前にノート貸しま〜す」
「だけかよー」

 保母さんをやってる姉から
 習った童謡を
 うちは五番まで歌う。


         8

 姉は変だった。
「面倒の掛かる子の方が
 断然、可愛い」
 という。
「しょうがないわねぇと
 思いつつ、可愛いのよ」

「成長を阻む愛情」
 と自分ツッコミをする姉。

 姉はお鍋の中で丸まって寝る、
 子猫のとうふが大好きだった。


         9

 料理に恋する女の子も
 二十人は越えていた。
「全員、採用でこの人数で
 昼前から晩まで回しますから」
 拍手が起こる。
「うちを助けてくださいね、
 頼りないんで、みんなで
 盛り立ててくださいね」
 笑いと一緒に
 もっと大きな拍手が起こる。

「他の授業にも
 ちゃんと出てくださいね」
「ここのも授業になるのよね、
 関大料理学部だし」

 質疑応答。
「部活?」
「じゃありません」
「アルバイト?」
「じゃありません」
「NPO?」
「じゃありません」

 うちは言い直した。
「部活もアルバイトも
 NPOの面もあるかもしれません」
「じゃ、儲けは?」
「時間に応じて、平等に分けます」
「テストがあるのかと
 思っちゃった」
「アハ」


         10

 テストされるのは
「うちの方」

「これから、これから」
 ふんどしの紐を締め直す。
 女性用のが流行した時に、
 買ったのが二つあった。

 コンセプトは
 学部としての料理部の
 実習のお店。

 うちは気持ちを
 揚げたてドーナツにする。


         11

「山田さん」
 名前が普通っぽくて、
 気に入っっていた。

「山田さん」
「山田さん」

 なぜか、呼びたくなる。

 それも授業中に――。

 うちは亀となって、
 首を服の中にすぼめる。
 手足もすぼめる。

 服だけとなって、
「山田さん」
「山田さん」


         12

「上手く行き過ぎるわね」
 また、加奈子が現れた。

 不動産屋さんのOBの計らいで、
 大学通りの裏通りに
 元喫茶店を居抜きで借りれた。
「学生だけじゃなく、
 地域の人にも開放ってのが条件」

「上手く行き過ぎてなんか、
 ないけど〜」
 加奈子が来てるもの、
 とは言えなかった。

 うちに嫌がらせ?
 しゃきしゃきしてたり、
 思ったことを
 ずばずば言う人は大の苦手。

         *

 うちは死に物狂いで
 話題を代えた。
「体育会系の料理部の方は?」
「ああ、あれ。あれは
 体験入部だったのよ。
 正式には入ってない。
 無理矢理、入部届けを
 書かされた子もいてたけど」
「いてたけど?」
「あたしは撥ね退けてやったわ、
 えっへん」

 そういうことのできる加奈子が
 徐々に大きく見えていく。

 圧倒されたうちは
 徐々に小さくなっていく。

 カメムシとなる。

         *

「こっちに入ろうかしら?」
 加奈子が店内をぐるっと見回す。
「インテリアもいいし、
 体育会系と違って、
 汗臭くなさそう」

 うちの心臓がバコバコする。

「どっしようかなぁ」

 うちの息がはあはあ、ぜいぜい。

「どっしようかなぁ」


         13

 長生きにしても
 長生きした人の勝ちだった。

「好き嫌いなく何でも食べることが
 長生きの秘訣」
 というおばあさんがいれば、
「好々爺なんぞにならず、
 癇癪を起こすことじゃ」
 とのたまうおじいさんもいる。

「一、二年頑張ってダメだったら、
 才能がないか、時代に合わないかで、
 諦めた方がいい」
 という詩人がいれば、
「継続は力で、十年やってきたから、
 いい詩が書け、デビューできた」
 とのたまう詩人もいた。

         *

 うちは
「幼稚園の保母さんに向いてる」
 ってよく言われる。

「幼稚園児の方がもっと向いてる」
 ってたまに言われる。

「ぶうーッ」