料理に恋して/カレー編
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どこかで読んだ覚えがある。
「人は自分で思ってる以上に
悪いことをするものだ」
「人は自分で思ってる以上に
成功しないものだ」
「人は自分で思ってる以上に
愚かなことをするものだ」
すべて当っていた。
大学通りの小さなお菓子屋で、
一粒十円のあめを買っては
小銭がなく、
一万円札をさっと出す。
「おばさん、それだけ?」
「ええ」
「細かいのは?」
とハゲたおじさんから、
もろに嫌な顔をされる。
わたしはキィーッともなれず、
「すみません」
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わたしは強がった。
強がって、
それで乗り越えれる時は
それでいい。
問題はそうじゃない時。
弱音を吐きたかった。
何かを足の裏で踏んでいた。
かがんでは立って
辺りをチラッ。
再び、かがんで
素知らぬ顔で十円玉を拾う。
「来るのが遅いって、お前」
十円玉に毒づく。
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お気楽世代の走りだった、
わたしもいつまでも
お気楽じゃいられなかった。
キャンパスは表立って、
光り輝き、まるで影など、
どこにもないみたい。
学生らが楽しくやっている。
音楽を掛け、ガラスに自分を映し、
踊ってる女の子ら。
アカペラの練習をしてる、
男女混合のグループ。
輪を掛けて、お気楽に見えた。
当時にはなかった、
新しい風景が次々と。
ボランティアで、
児童養護施設の子らと
キャッチボールしてる学生も。
「浅くて最高」
「悩んだりするのかしら」
わたしのはすでに古い葛藤で、
この子らにはこの子らなりに
新しい葛藤があるのかしら?
いつの間にか、
色褪せた自分の葛藤。
葛藤ですら、年を取る。
お気楽の強さが羨ましい。
眩しくて、目を細める。
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「セピア色なんて、
いいもんじゃないわ」
下着だって、
淡い色より、
濃い派手なのが好み。
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芝生の上に、
二人の女子学生が楽しそうに
寝転がっている。
ローラインのジーンズなので
お尻が少し見えている。
「可愛い」
と思ってから、
「品がない」
に変更する。
*
できれば、
わたしも出したかった。
経済学部のトイレに入っては
周りを確認。
鏡の前で後ろ向きになり、
少し出してみる。
突然、ボックスのドアが開く。
間抜けた、
表裏のなさそうな、
女子学生が現れる。
惚けた空気感に
トイレ全体が包まれる。
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の