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料理に恋して/カレー編

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         23

 見返りないし、
「月三千円の支援を止めようかな」
 手の平を返してみる。

 手の平を返されてみる。
 レコード三枚を出した後、
 担当さんから契約を
 切られた悔しさ、悲しさ。
 恨むのは筋違いなのは
 重々、分かっていた。
 売れるためにどうにかしようと
 懸命に頑張ってくれていた。
 会社の方針だってある。

 手の平を返してみる。

 エジプトに自分の子供を
 持った気分なんて、
「全然、しない」

「あの子らにとって、
 わたしこそ、神様仏様?
 降臨?」
 大げさ?

 逆にひどいことを
 してるような気分になる。
 知らん顔してる気になる。


         24

「救われるって何?」
 往生をとぐって何?

 善人より悪人の方が
 死によって
 救われるってこと?

         *

 鳥肌が先にぞぞっと立つ。

 死って何?
 自殺? 他殺?
 殺すの? 殺されるの?

 疑問集ができるほど、
 疑問が自棄っぱちになって、
 ざざ降りになる。

 如来様が姿形を変えて、
 わたしの前に?

 それって誰?
 もしかして、あの子?

 って、どの子?


         25

 方向性を間違ったのかなぁ。

 でも、今は物語性もありつつの
 詩情のたっぷりある、
 ジャズピアノが弾きたかった。

 試行錯誤。
 音を切るスタッカートを多用。
 スタッカートにも
 色んな種類があった。

 指を弾くようなそれ、
 手首を連動させるそれ、
 腕全体を使った、
 ヘビー級のスタッカート。
 他にも色々。

 もちろん、連続して滑らかに弾く、
 レガートとの合わせ技。

「このままだと、心中だわ」

         *

「はあ」
 ため息が出る。
 こんなことにばかり詳しくなって、
 余計、食べれなくなっていた。

「それなりには弾けるんだけど――」
 自分で言っておいて、
 自分でハッと気付く。

「それなりには弾けるんだけど、
 それなりにしか、
 その程度にしか弾けなくなってる。
 小器用に成り下がってる!」

「悪人こそ救われる」
 わたしはその真の意味が
 やっと分かる。


         26

 わたしは法学部のトイレで
 脱いだ下着を
 キャンパス内の手頃な木に着せる。

 ブラとパンティを着けた、
 人間っぽい木が風にそよいでいる。

 確か、仏教って女性差別していた。
 罪深く、男性に生まれ変わってしか、
「悟れないとかなんとか」

 その場を足早に離れながら、
 熊のぷーさんにちょっかいを
 出そうと思ったその矢先、
 わたしは立ち止まる。

 掲示板に注意書きがあった。
 宗教の勧誘や
 英会話などの物品販売、
 大麻の密売。

「不審なおばさんが徘徊してる、
 って噂もあるやん。
 追加してもらわなきゃ。
 学生課に行こう」
「あの人じゃない」
 とひそひそ。

 わたしは教授の上村君に
 会いに来たのだと自分に言い聞かす。
 二歩三歩、後退。
「心中相手として――」

 見当たらない。
 なら、
「熊のぷーさんでもいい」
 心中する元気が出てくる。

 あの男の子でもいい、
 あの女の子でもいい。

         *

 黄色い帽子を被った、
 幼稚園児が集団で下校していた。

 関大の正門から入っては
 お歌を歌いながら
 ぐんぐんと迫ってくる。

 前門の虎、後門の狼。
 わたしは圧倒される。
 サンドイッチの具。

 黄色い集団に飲み込まれる。
 溺れそうになる。

 わたしは幼児となって、
 一緒に歩いてる。

 図らずも残りの一回を
 使ってしまっていた。
「し、しまった」


         27

 キャンパスの一番奥にある、
 体育館の裏で
 わたしは四十才に戻ってる。

 飛び越え、
 六十才になってないことに
 ホッとする。

 どん底だと思っていたら、
 世間にはもっとどん底の人が
 あふれていた。

 当分は働くなくても
 暮らせる貯金はあった。
 ひもじい思いもなく、
 ちゃんと食べれる。
 週一のエステを止める気もない。

 足の裏から、くすぐったいが
 にょろにょろと這い上がってくる。

         *

 怖くなる。
「どん底の序章に過ぎない?」

 未来を予感し、
 鳥肌が立つ。

「これからなの?」

 わたしは誰に問うとでもなく、
 問うていた。

 辺りの風景が回る。
 徐々に速度が上がる。

 メリーゴーランドに
 乗ったのなんて、いつ以来?

 吐き気と共に
 目が回り出す。

 わたしの喉の奥が
 悲鳴を用意している。