料理に恋して/カレー編
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友情にも色んな形があった。
理想も現実も千差万別、
だけど、以前は
表面上の形は違っても
助け合うってことで
裏打ちされていた気がする。
「少なくとも建前は」
その裏打ちがポロリと外れ、
その他多くの一つに
なってしまった気がする。
「助け合う友情観も
ワン・オブ・ゼム」
今のわたしに友達はいなかった。
知人や腐れ縁なら、
どうにかいる程度。
自分の生活が反映したような
友情観にびびる。
自分の友情観に
わたし自身がたじたじとなる。
少し離れて見る。
指でツンツンしてみる。
*
「幸福な友情観の人なんて、
物事の本質を見ない、
きれい事好きの大バカよ」
わたしは空いたベンチに座って、
空を見上げる。
誰かに思いっ切り、
否定して欲しくなる。
*
友達って何だろう、
って改めて考えないこと自体、
幸福な気がする。
尿意に誘われる。
最近、トイレが近く、
トイレで、トイレと
トイレになっていた。
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哲学科の友人が昔、
言っていたことを思い出す。
「病気だったり、
不幸だったにしても、
そのままでいて、
幸せに暮らすのが仏教なんや」
「どういうこと?」
「病気が治ることが幸福やない。
病気と歩んでるままに幸福。
つまり、見方を変えるんや。
見方革命」
「大げさな言葉ね」
二十年後の今頃になって、
言葉に重みが宿る。
でも、やっぱり、
「報われる方がいい」
アメちゃんをくれるみたいに
「悟らない人の尊さ」
とかも言ってたっけ。
ベッドで裸の
わたしに向かって――。
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小中高とあって、
大学に特に愛着があるのは
どうして?
わたしだけのこと?
まるで、彫り物。
一生背負っていく刺青。
化粧の代わりに
カレーの匂いをまとう女の子が
小さなお鍋を持ったまま、
目の前をドタバタと走っている。
「カレーの出前?」
表裏のなさそうな、
そのふわふわ顔が
羨ましいほど――。
わたしはその後ろ姿に
「頑張ってー」
と手を振ってしまう。
*
人を幸せにするような、
笑顔が羨ましい――。
いつまでもいつまでも
変わらないで
いて欲しい。
ずっとずっと
変わらないで
いて欲しい。
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夢に敗れて散っていく。
なら、まだましだった。
夢に振り回され、
飼い殺し状態が
わたしだった。
父母を喜ばせたかった。
心配させてること自体が
親不孝。
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父母が健康で
長生きしてくれるだけで、
元気付けられる。
人生八十年と思えば、
「まだ半分」
みんなで長生きして、
平均寿命を
「もっともっと、
最低、百に上げて」
と思う。
「退職年齢も八十に」
希望の光が差す。
父母の仲がいいのは
わたしにとって、
一番の励みだった。
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わたしはエジプトの貧しい地に、
降り立つ自分を想像する。
でも、あまり頻繁に
手紙をして欲しくないし、
文面も短い方が好まれるみたい。
黙って、お金だけ寄付するのが
一番、喜ばれるみたい。
でも、支援してる手応えがないと、
Iカップジャパンの
会員は次々と去っていく。
「善意のやり逃げ」
そんな言葉があるのも知った。
何かを施し、
その時だけ気持ちよくなり、
後は知らん顔する人たちを指す。
継続性のなさを嘆いていた。
次の日には服や食事や旅行に
散財する人たち。
矛盾はバランスになっていた。
矛盾に悩むことなんてない。
「それはそれ、これはこれ」
「一生、付き合う気なんてない」
黒い欲望でいっぱいの、
無力な自分がエジプトの
大地にドレス姿で立っている。
消費は善? 存在論的悪?
バランスなんて取れない、
あの女の子や男の子たち。
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の