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料理に恋して/カレー編

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        A1

「空耳?」
 悲鳴を聞いたような気がする。
 うちは特大のカレー鍋を
 かき混ぜる。

 憩いの芝生の前に
 長い行列ができていて、
「炊き出しで、
 ホームレス支援をするNPOみたい」
 と加奈子が耳打ちどころか、
 はっきりした声で、うちに言う。

「勝手に難民にするなッ」
 と野次が飛ぶ。
 笑顔の熊さんだった。
 涙目の女の子を乗せた乳母車、
 そのお母さんはケータイ電話中。
 その後ろには見覚えのある、
 きれいなおばさんが並んでいた。
 目が合い、うちは軽くお辞儀。
 ミシュランの調査員?

 その直後、二十人くらいの
 学生の集団が一気に
 どたばたと駆け込んでくる。
「極上のいい匂いの
 毒入りカレーだったりして」
「食べたい、食べたい」
 下手なジョークに
 大勢が盛り上がる。
「地獄への道は
 バラが敷き詰められてる」
「じゃ、天国へは?」
「うーん、カスミソウの死体とか?」
「神への生け贄ってか」
「よく考えれば、食事って、
 動物や植物、
 色んな死体を食べてるんだよなぁ」
「食欲、湧くぅー」

         *

 三百食が無料で次々と配られる。
「はい、どうぞ」
「アンケートは必ず書いてね」
 と加奈子はただ食いは許さない。

 アヤネは料理道具を使っての
 演奏の準備に余念がない。
 フライパンだって、
 スプーンだって、
 楽器に早変わり。

 大学から助成金をいただき、
「名物となる関大カレーを作るように」
 とのお達しを受けていた。
「大学側も粋な計らいをするわね」
「これからは大学カレーよ」
「お袋のカレーや郷土カレーに
 匹敵する関大カレー」
 加奈子が言った。
「学外にも開かれた、
 よその人もわざわざ食べに来るカレー」
「卒業後、十年二十年と変わらない味」

「大役だわぁ」
「口とは裏腹に気負ってないわねぇ」
「そうなのかなぁ?」
 うちは自分のことがよく分からない。

「見つけてって、
 助けを求めてるのかなぁ?」
「何それ?」
「関大カレーはもうどこかにあって、
 うちらはそれを見つけ出し、」
「救い出すのが役目って?」
 ウインクしながら、
 加奈子が続ける。
「中浜は味の探偵さんかもね」
「じゃ、真相探しは
 持ち越しってことで」

 うちと加奈子はベロを出し合う。
 次に、太ももを出し合う。


         2

 火曜日に食べると運気の上がる、
 幸福のカレーと勝手に
 噂を広めたのはたぶん、
 スケート部の薫ちゃんと
 すけりんの共謀。

 うちはせっせとお鍋を混ぜる。
 アンケート結果を反映した、
 新作カレーの試行錯誤。
 最低、二十以上は作って、
 その中から選ぶことになっていた。

「どんなカレーになるやら」
 料理に恋して、難産の末、
 子供を産むような感じ。
 そんな気持ちは初めてで、
 うち自身、どんなカレーに
 なるか分からず、それが楽しい。

 混ぜ役をアヤネや山田さん、
 他のメンバーと
 次々とバトンタッチ。

         *

 うちはふらふらと散歩に出る。

 あくびがいくつも出る。

 くしゃみもたまに出る。

 おならはすかす。
「一応、女の子」

 偶然にも、うちは
 最低、Fカップ以上はある、
 巨乳女子学生の
 トライアングルの中に
 入っていた。

 三人の真ん中で、
「わお」
 と思ってしまう。
 罠に掛かった、
 小動物の気分。

「なんのこっちゃ」
 と自分にツッコむ。

 トライアングルの音色が
 過去から響き渡る。


         3

 大学通りから、正門に入る。

 キャンパスを歩く。

 左手の坂を上って、
 法学部や文学部の方へ。

 今は図書館のところが
 昔は広大なグラウンドだったのは
 一応、知っている。

 当時の学生がアメフトや
 サッカーの練習をしてる風景が
 セピア色となって浮かび上がる。

 うちは決まったシュートに
 思わず、拍手する。

 昔のキャンパスを味わう。

 百二十五年を越える伝統。

 もっともっと昔のキャンパスは
「想像外」

 関大村。
 うちら学生を産み出して行く、
 大きな母胎。

「母船かな?」
 眠たくなるうち。

 寝るのにいい場所があった。
「よいしょ」
 とスカートを気にしつつ、
 うちは横になる。

 見たい夢は決まっていた。

         *

 なのに、
 ライオンに食べられる夢ッ、
 どころか、
 ライオンを食べてる夢!

「ひぇーッ」


         4

 一週間前、
 自棄っぱちだった木が
 今は穏やかに立っている。

 そのどこかから、
「これからこれから」

 変な鳴き声の鳥が
 関大キャンパスの
 至るところに巣くってる。

「これからこれから」



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