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料理に恋して/カレー編

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         9

 小型の携帯ピアノで
 関大の校歌をジャズ風に
 弾くことを思いつくが
 持って来てなかった。

「大きな失敗を犯したよう」

 取り返しのつかない、
 大失敗を犯したようで、
 居ても立ってもいられない。

「取りに帰らなきゃ」

 今度の火曜日で
 いいのにと思うのに、
 心が落ち着かない。

 どうしてかも分からず、

「大きな失敗を犯したよう」


         10

 みんなの心のゴミ箱になりたい、
 って自己紹介した同級生を思い出す。

「今頃、何してるのかしら」

 わたしは
「みんなの扇風機になりたい」

 言ってみただけ。

 カレー屋の惚けた顔の
 女子学生を思い出し、
「炊飯器もいいか」


         11

 最近、テレビで中学の時の友人が
 夜食料理大会の
 審査委員長をやっていた。

 顔の痣は当時のまま。

 友人っていう程でもない。
 家に何回か遊びに行った程度の
 ほんの知人。

 大学の時の英語のクラスメートも
 スチュワーデスの後、
 政治や経済の難しい番組の
 司会の補佐をしていた。
 当時のあだ名は野バラちゃん。
 性格とは裏腹に
 可憐で清楚っぽかった、
 わたしはカスミソウ。
「バラの方が断然いいわ」
 カスミソウなんてしけてる。

         *

 でもって、突然、
 画面上に現れたものだから、
 びっくり仰天。

 飲んでいた男性カルピスを
 ちょっと噴き出した。

 わたしは世間的な出世に
 興味はなかった。

 ただ、素敵な曲を
 素敵に奏で、
 みんなに聞いて欲しかった。

 他人の人生を変えるような、
 大それた音楽なんて、
 全然、目指してない。


         12

 ゴッホや田中一村。
 生前に認められなかった人は
 結構、多かった。

 だからって、
 自分もその一人だとは
 到底、思えない。

 ほとんどの人が前衛でもなく、
 独りよがりで、消えていく。

 先を行き過ぎてるとか、
 周りの見る目が悪いのでなく、
 自分側の問題。

         *

 人のせいにできる、
 年齢じゃないのが寂しい。
 反省しないわたしが
 反省するようになっていた。

「若さがない」
 我がままだった頃が懐かしい。
 若い人はそれくらいがいい。

 わたしは手の平を返す。

「耳の肥えてない奴ばかりよ。
 新しさを求めてるくせに、
 実際は古いのが好きなのよ」


         13

 人は人生を間違えるものだった。

 敗れざる者ってタイトルの
 本を学生時代、読んだことがある。

 内容は敗れた人たちの話だった。

         *

 でも、わたしは
 二度目のスタートライン、
 にさえ着けず、敗れてる。

 一度目のチャンスは生かせなかった。

 チャンスはもうない気がする。


         14

 悶々とさえ、
 しなくなっていく予感。

 悶々とさえ、
 しなくなっていく恐怖。

 わたしは逃げるように
 経済学部のトイレに入って、
 指で自らを慰める。

 こういう時は面と向かわず、
 誤魔化すに限る。

 わたしは声を堪える。

 悶々の中にいる。


         15

 快楽は束の間で、
 キャンパスに降り注ぐ日を
 浴びてると余計、
 虚しくなっていた。

「オナニーしたばかりなのよ」
 と誰かに言いたくなる。
「おばさんのオナニー」

 目が熊のぷーさんを探す。


         16

 友達してるなぁ。

 いいなぁ。

 わたしはキャンパスに佇む。

 つらいなぁ、
 申し訳ないなぁ、
 不甲斐ないなぁ。

 マイナスの感情ばかりが
 寄ってくる。

 キャンパスから、
 パワーをもらいたかったのに
 これじゃ逆効果。

 友達してるなぁ。

 いいなぁ。

         *

 人といがみ合ったり、
 マイナスの
 コミュニケーションでしか、
 人と係われない、
 学生時代の知人を思い出す。

 得意がって嫌味や批判、
 中傷や悪さなどでしか、
 人と係われない。

 論語読みの論語知らず、
 頭でっかち。
 みんなから疎まれたって、
 それがその人のできる交流方法。

「孤独よりまし」
 と今頃になって、思い至る。