料理に恋して/カレー編
8
エッチに太った薫ちゃんが
またまた来店。
カレーのお代わりをして、
熊さんと腕を組んで一緒に帰る。
お客さんじゃなければ、
どついてるような勢いで、
貧乳の加奈子はぷんぷんしていた。
「ライバル視なんてしてないわ。
問題外よ」
空になったカレーのお皿が
厨房まで、一っ飛び。
うちはなぜか、
それに詩を感じてしまう。
「詩情たっぷりやん」
9
うちは悩み方が分からなかった。
極楽トンボ系だ。
何も考えてなかったってことが
最近、薄っすらと分かる程度。
思うのや感じるのとは違った。
「行動は考動」
って関大の冊子にもあった。
考えてるつもりだったが
全然、考えてなかった。
*
カレーパンと
カレーチャーハン。
「どっちが正しいのかしら?」
どっちが親切なのかしら?
10
「頑張らない生き方」
って加奈子から
言われたことがあった。
「頑張ってるって感じが
全然、ないのよねぇ」
「そう?」
講義に出た後、
他の友達と連れ立って、
お店に向かう。
うちは料理だって、
頑張ってるってより
好きだからやっていた。
他の友達を差し置き、
「くんくん」
カレーの匂いに釣られて、
ふらふら。
匂いだけで、
今日は誰が作ったか分かった。
匂いにだって、人柄。
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うちは一人、厨房に残る。
誰もいない時間も好きだった。
家とは違い、
圧倒的なお皿の量。
うちはお箸で、
キンコンカンとやってみる。
グラスを声量だけで割った、
アヤネの友達を真似て、
うちは動物となる。
「わんわん」
「にゃあにゃあ」
「ふーふー」
*
料理も音楽だった。
お肉をじゅうじゅう焼く音。
お鍋がぐらぐら煮える音。
大根をこんこん切る音。
朝食の音、夕食の音。
それぞれ違った。
音から逆算して、
料理の方を作る。
じゅうじゅう、
ぐらぐら、こんこん。
音楽としての料理。
うちの鼻歌も音楽、
ついでにスリッパ、
ぺたぺたも音楽。
*
うちは溶けていくみたいに
汗まみれ。
料理の音だけが入った、
「CDがあればいいのに」
12
高級イタリアンの音楽、
一膳飯屋の音楽、
たこ焼き屋の音楽。
椅子を引く音もおまけ。
ちょと話題にしたら、
アヤネが翌週には
ピアノを背景に、
料理の色んな音を前景に
CDに仕立てていた。
「先入観からか、音だけで、
何を作ってるか分かるわ」
「ホントね」
アヤネが笑顔で目を細める。
「中浜を見てたら、
何かしてあげたくなるのよ」
「人徳やなぁ、うち」
「自分で言うか」
「幸せ者やなぁ、うちは」
*
その後は、みんなで、
何を作ってる料理の音か、
当てっこをする。
「カツ丼」
「きつねうどん」
「チキンラーメン」
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の