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料理に恋して/カレー編

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         3

 加奈子は付け足した。
「人を変える前に、
 本当は自分自身が
 変わるようなのを書きたい」

「体重が変わるとか、背が伸びるとか」
「アハ」
「書いてると、胸が大きくなるとか」
「それいい」

「書きながら、発見があり、
 自分を突き抜けるような作品」
「そんなこと考えてたんだぁー」
 とうとう、うちはひっくり返る。

         *

 ついでに弟の話までしてくれる。
「知的障害の弟でね、
 小学校の頃は毎日、
 連れて登校したわ」
「そうだった?」
「覚えてないの?」
「覚えてるような」
「まあ、いいわ。ある日ね、
 連れて登校するのが嫌になってね」

「とんとん」
 うちは心の扉をノック。
「後は自分で行きなさいって、
 途中で置いてきぼりで、
 あたしだけ駆け出して」
「あ!」
 とろいうちでも思い出していた。

「置いてきぼりにしたくせに、
 心配になってね、
 教室の窓から、
 ぶつくさ言いながら、
 イライラ見てたら、
 中浜が連れてきてくれたのよ、
 手をつないで」

         *

「今思えば、弟が中浜の手をつないで
 ちゃんと学校に連れてきたって
 分かるけど」
「そうかもね、うち、道草したり、
 方向音痴なとこあるし」
「人生の方向音痴」
「アハ」

「もう死んじゃったけど」
 加奈子は続けた。
「今、プアな二人の男性に
 一人の女性が養われる、
 って話を書いてるの」
「すごーい」
「非正規雇用が結婚するには
 これしかない」
「じゃ、三人も四人もあり?」
「逆ハーレムよ」
 うちはよだれを垂らしてしまう。
「プア、バンザイ」
 を二人で連呼する。


         4

 犬がうんこをしてる後ろで、
 飼い主がスーパーの袋を
 広げて、待っている。

「こいつ、一体、何しとんねん」
 って目で、犬が後ろを振り返る。
「わしのうんこ、
 どないするつもりやねん。
 ほんま、分からんわぁ」

         *

 うちは友達のケータイを借りて、
 姉と暮らす子猫のとうふと会話。

 保母をしてる姉の恋愛状況を
 仔細に聞き出す。
「へぇー、そう」

 最後に、
「どんなカレーがいい?」

「わんちゃん、猫ちゃんが
 好きなカレーって?」


         5

 キャンパスの中央通りを
 行列のできる、
 屋台のたこ焼き屋さんが
 流しで営業していた。

 行列のできる、
 屋台のラーメン屋さんも
 流しで営業していた。

 乳母車の女の子が
 それらを涙目で見送ってる。

 必死になって、
 バイバイしてる。

 行列のできる、
 きれいな女子学生が
 呆然自失している。

 うちも幼い女の子を
 応援するように、
 二台の屋台に向かって
 必死になって、
「バイバイ」

 腕が千切れて、
 草むらに飛んでいく。
 見とれていたうちは慌てて、
 拾いに走り出す。

 見ていたチワワに
 先を越されそうになる。


         6

 音大生のアヤネは珍しく
 音楽を話題にする。
「ドにだって、二十も三十もあるのよ」
「ドはドだけじゃない?」
「プロはそれら表情を弾き分けるの」
「ふーん」

 うちは疑問を口にした。
「アヤネの音ってどんな音?」
「どういう風に言ったらいいの?」
「軽いけど強いタッチとか」
「自分じゃ言いにくいなぁ」
「じゃ、人からどう言われる?」
 アヤネに間があった。
「きれいな音。ひび割れのない、
 澄んだきれいな音」
「いいやん」
「でも、課題や問題点なら、
 もっと言われてる」
 うちとアヤネは笑い合う。

「みんなからの不平不満も
 改善のための大切な情報ってわけ」
 アヤネは手をひらひらさせ、
 音大の授業に出て行った。

 歩くだけで、
 音を奏でてるようなステップ。
 歩きながら、ショパン。


         7

 熊さんとアヤネがまた盛り上がり。

 うちは横で聞いていて、
 顔を右に振ったり、
 左に振ったり、
 いい首の運動。

「禅の自力には空って考えが
 裏打ちされてて、それを考えると、
 自力も他力もないんじゃないかって」
「そうか、自力であり他力である」
 と熊さんが頷く。
「言葉って、方便でしかないのを
 すぐ忘れがちになっちゃうわ」

「浄土真宗だって、
 自力でいいことする、
 人に親切にする。
 その行為の裏側に
 他力が裏打ちされてる。
 そう考えれば、
 自力も他力もないような」
「難行も易行もないか」
 口紅が剥げてないか、
 アヤネが一瞬、気にする。
「ただ、似てるけど、
 力点の違いはあるんじゃ?
 強調点が多少異なる、
 双子って感じかな」

 うちは言いたかったことが
 分からなくなる。
 元々、釈迦の一つの考えが
 自力とか他力とか、
 どうして正反対になるのか、
 そっちの方が不思議っていうか。

 嫉妬の渦巻く加奈子が
 うちを使って、背後から
 二人羽織りの体勢となる。

「いいことを言ったって、
 お寺も所詮、寺院経営なのよねぇ。
 檀家回りって営業マンで、
 お布施、お布施」
 うちが喋ってることになる。
 まあ、いいかと思い、
 口をパクパク。

「追善供養の回数を多くするのも
 お金、お金。
 布教はさしずめセールス活動」

 熊さんとアヤネはうな垂れる。
 うちの右腕が勝ったとばかり、
 高々と上げられる。