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料理に恋して/カレー編

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        A1

「ねぇ、落書き消しのボランティア、
 お願いしていい?」
 うちは図書館バイトの
 山田さんから誘われていた。

「図書館で借りる星新一が好きで、
 中学校の時、漫画代わりに
 英訳のを片っ端から読んだわ」
 加奈子は続けた。
「今、日本語のを読むと、
 ちょっと面白いと思うけど、
 それだけっていうか。
 小器用なお話作り、ちょとした、
 アイデアストーリーでしかない」
「アイデアが面白いし、
 あれだけの数はすごいわ」
「否定してるわけじゃないのよ。
 当時、否定されたら、
 俄然、擁護してたと思う」
 加奈子がプチおいしいって
 人気のスナック菓子を
 口に放り込む。

 うちは同感。
「好きなのって、けなされたくないもん」
「物足りなくなったっていうか」
「ないものねだり?」
「カミュのも小説なら、
 星新一のも小説」
「色々あるもんね」
「カミュでさえ、
 読まれなくなってる話よ」
 うちはスナック菓子を狙ってる。

「あ、ごめん、食べる?
 勧めるのを忘れてた」
「隙を狙って、食べたかったのに」
 残念がるうちに、
「楽しんだ人の勝ちっていうか、
 入って見るか、離れて見るかで、
 同じセリフが臭かったり、
 心にぐっと来たり」
 加奈子は続けた。
「読めることもあるけど、
 読めないこともあるんだなって、
 自分にはって」

 うちはぶるぶると顔を振る。
「そんな自覚、うちにはないわ」
「認めたくないけど、
 きっと、読めないことの方が
 断然、多いのよ。
 子供、大人、男性女性、
 個人個人違うし、
 そんな色んなモノサシを
 一人で一辺に持てないわ」
「そうかもね」
 加奈子の言いたいことが
 何となく分かる。

         *

「さんまのテレビ番組、
〈恋のから騒ぎ〉は未だに好き。
 しょうもないって言う人が
 一番しょうもないのよ」
 加奈子は何かに悩んでいた。
「どうした?」
 うちは覗き込む。
「断言するのが怖くなってきて」

「言おうと思えば、言えるんだけど。
 得意がって批判するのが
 バカに思えてきて。
 単に自分の好みにしたいだけ、
 単に自分には分からないだけ、
 なんじゃないかって」
 加奈子は続けた。
「好き嫌いで言ってると
 思わせないように
 好き嫌いで言うとかも
 考えたけど――」

         *

 物事に対する見方に、
 悩んでる加奈子に、
 うちは悩む。

 失敬したスナック菓子を
 やっとポリポリ。
「プチおいしい」

「恋からに出たらいいのに」
「わが身を犠牲にして、
 あたしに喋れって?」
 頷くうちに、
「一緒に出る?」
 うちは首を振る。
 縦でも横でもなく、
 斜めに――。


         2

 本にも相性はあったし、
 料理にも相性はあった。

 加奈子とうちは相性が
 悪いと思っていたら、
 そうでもない。

 断言するのは確かに怖かった。

         *

 加奈子が作家志望だと、
 うちは初めて知る。
「読んだ後に、その人が
 変わるようなのを書きたい。
 読む前と読んだ後じゃ、
 物の見方や態度が変わるっていうか、
 現実に何か経験すると、
 人って変わることがあるでしょ」
「そんなこと考えてたんだぁー」
 うちはひっくり返る準備中。

「あたし自身が読みたいのが、
 そんなのだから」
「ふーん」
「何読んでも大して面白くなく、
 小説読むのが好きじゃなくなった、
 のかなって思ったこともあったけど、
 ある本に出合って、小説読むの好きって、
 思えた作品があるんだぁ」
「な、なんて本?」
 うちは脱皮するみたいに、
 身をぐぐっと乗り出す。
 本当に一皮剥けそう。
 ピチッとどっかが裂ける音。

「だから、小説ってすごいなぁ、
 すごい力があるんだなぁって、
 失った信頼を取り戻すような、
 作品を書きたいんだぁ」

「そんなこと考えてたんだぁー」
 色んな小説観があるもんだ、
 とうちは感心する。
 夏草や風のために何かが書けたら、
 どんなに素敵だろうって、
 語ってた人も確かいたっけ。

 触発されたうちは今までにない、
 新しい料理を
 恋をするみたいに想ってみる。