料理に恋して/カレー編
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「芸術学部のある大学は
カッコいい」
関大唯一の欠点。
さっきの涙目の女の子を探す。
キャンパス中を探す。
奪って、自分の子にしなきゃ。
誘拐じゃなく、
「取り返すのよ」
さらわれた気がして、
わたしは躍起となる。
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駆けずり回り、へとへになる。
誇りどころか、
関大唯一の汚点がわたし?
頑張るところを間違えがち。
人生に嫌気が差し、
自暴自棄になり掛かっていた。
涙目の女の子の代わりに、
あの小亀を池に探す。
もう一度、助けるためには、
「もう一度、不幸にしなきゃ」
わたしは小学生から、
釣竿を分捕る。
ダンプの走る道路に
小亀を置いては
「命懸けで助けよう」
自分の命も顧みず、
小亀を助けてるシーンが
頭に浮かび、
わたしは涙目になる。
あの子になる。
乳母車の中で、
手を振る。
*
かくれんぼをしてて、
恐竜のお腹に、
自分を見つけた感じ。
わたしは自分に向かって
手を千切れるほど振る。
バイバイなのか、
助けてなのか、
こんにちはなのか、
分からないまま、
手を千切れるほど振る。
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「夢に向かって」
とか、
「夢を諦めるな」
とか、
勝手なことを言ってるなぁ。
夢を見る残酷さ、惨めさ。
人生を棒に振っている人の方が
ずっと多いはずだった。
わたしもその中の一人だった。
みんなの寝転ぶ芝生の真ん中で
わたしは両手を広げて
独り芝居をする。
「ダメでも好きなことをやれて、
幸せやん」
「そんなことはない。
安易な慰め」
*
他人から見て、惨めだったが、
本当はそれ以上に無残だった。
わたしは芝生の端で、
全身を使って打ちひしがれる。
キャンパスを公園代わりに使う、
近所の子供から
パラパラと拍手が起こる。
「小芝居、もう終わり?」
「続きはないのぉ?」
二十才のわたしは我に返る。
一気に恥ずかしくなる。
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偽悪的な元夫が
詩劇の演出家だったのが憎らしい。
「わたしにこんな恥ずかしい、
真似をさせて」
未だに人生を演出されてる?
恐怖が形となる。
*
頑張ったけど、
ダメだった人の話を聞きたい。
「夢に惑わされるな」
って言ってくれる人。
週末起業、週末NPO、
エトセトラ。
「リスクは最小限に」
って言ってくれる人。
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夢があり、
それが目標になっていれば、
同じ惨めな生活をしていても
耐えれた。
問題は
「ああ、無理なんだな」
と思った時だった。
惨めな生活が何倍も
惨めになってくる。
人生を棒に振っていた。
「誰だって一回や二回、
心が折れてる」
なんて、安易な慰め。
口先だけの親切はあふれてる。
欲しいのは具体的な救いの手。
*
ヨーロッパで売られる、
高級ブランドの香水、
その原料となるジャスミン摘みに
子供の小さな手は欠かせない。
朝の二時から始まる花摘みの中、
悲惨な暮らしを強いられる、
エジプトの女の子が
写真の中で微笑んでる。
月に三千円だけで、
「ほったらかしにして、
ごめんね」
五千円にしたら、
「わたしの運気も上がるかしら」
いいことを
させてもらったこと自体が
ご利益、なんて思うほど、
人ができてないわたし。
「やっぱ、現世利益」
もしかして、わたしって、
神仏頼みに走ってる?
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の