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料理に恋して/カレー編

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         7

 二十才のわたしは大学のバスに乗る。

 アイスリンクのある、
 京都寄りの
 高槻キャンパスに向かう。

 こっちは全然、知らなかった。
 わたしが学生の頃はなかった。

 すけりんは行ったり来たりだが、
 こっちにいる方が多い。

「産んでおいてよかった」
 と母から言われたことを
 急に思い出す。

 バスの車窓からの風景に
 わたしは武者震いする。


         8

 小亀の恩返しが
「三回までしかない気がする」

 今は二回目。
 それもいつ持続性がなくなり、
 人前で四十才に戻る?

 恐怖が襲ってくる。

 高槻キャンパスに降り立つ。
「こっちの方がすごい。
 広々してる」

 今頃になって、
 芸術学部のある大学に
 行きたかった気がする。

 自分の入るのが
 芸術学部じゃなくていいから
「関大、作りなさい」

 わたしはお姉さん的になる。
「訳の分からない学部」
 時代におもねった、
 実学的な学部ばかり
 新設しないで、
「芸術学部」

 わたしはとんぼ返りで、
 帰りのバスに乗る。

 料理も芸術かしらと思う。
「芸術料理学部」


         9

 学生会館の本屋で、
 近所の若いお母さんが
 乳母車を押している。

 視線を感じた二十才のわたしは
 表情が硬くなる。

 幼い子供がわたしを見上げて
 手を振っていた。

 笑顔もなく、
 わたしはどうにか振り返す。

 ドキッとする。
 涙目で、女の子が
 手を振っていたのだ。

 お母さんが何かを探してるらしく、
 我が子の仕草に微笑みながら、
 乳母車を押し進める。

         *

 店内の別の通路でまたすれ違う。
 幼子がわたしを見て
 また手を振ってくる。

 二十才のわたしは
 どうにかこうにか振り返す。

 本を買って、レジを済ますと、
 レジに並んでるお母さんの前から、
 また手を振ってくる。

 三度目だった。

 一体、何だろうと思う。
 笑顔じゃなく、
 訴えかけるような涙目。

 救いを求めた、
 幼児虐待には思えない。


         10

 外に出た途端、思い当たる。
「堕ろした子の生まれ変わり?」

 胸が締め付けられる。

「もっと手を振ればよかった」

 知らない人がよその子供に
 接すれば、
 用心される世の中を
 二十才のわたしは恨めしくなる。


         11

 子供を見かけるたびに、
「ああ、可愛いなぁ」
 と思うようになっていた。

 昔はそんなことは
 全然、思わなかったのに。

 結婚するなら、
「三十五才までがいいですよ」
 と親切のつもりか、
 お見合いパーティーで、
 助言した男性は
 全女性から総スカンだった。

 わたしは疫病神探しをする。
「あいつだろうか」
「それともあいつだろうか」

 運がないのは
 誰かのせいの気がしてならない。

 縁を切りたい相手を
 思い浮かべる。
 友人はいなくても
 腐れ縁の知人はいる。

 片手じゃ足りない。

         *

 両手じゃ足りなくなった時、
 わたしは立ち止まる。

「自分が一番の疫病神だったりして」


         12

「そんなことはない」

 わたしの入ったお店には
 必ずと言っていいほど、
 お客さんが何人も続いた。

 店側にとっては
 縁起のいい客だった。

 察した店長から、
 サラダとコーヒーを
 サービスされてことだって。

 もしかして、
「過去の栄光?」

         *

 ゲン担ぎのパンティー。

「しょちゅうははかないけど、
 ここぞって時用」

 運だって、はき過ぎは
 擦り切れる。

 大学の生協で、
 関大生らしいのを買う。

 応援歌がプリントされてる。