料理に恋して/カレー編
B1
横取りするつもりが、
「好きになる」
二十才のわたしは
キャンパスの花となる。
自画自賛?
そんなわけはなく、現実。
わたしの後ろに、
行列ができていた。
人気ラーメン店に
伸し上がった気分。
地に足が着いてない。
「浮ついている」
2
唇だけが渇く。
熊さんの後を付ける。
二十才のわたしが
彼を射止めても当たり前。
四十のきれいさで、
デートに誘われれば、
そっちの方が
「すごい気がする」
プロポーズなんて、
された日には、
「うふふ」
想像が想像を呼ぶ。
年上ぶって、
ベッドで大胆になってる、
「わ・た・し」
うふふ。
「人生、楽しいわ」
*
そういえば、忘れていた。
三十五才の時、
パン屋のバイトの高校生から、
手紙を渡され、
交際を申し込まれたことも。
世間は年上流行り。
「わたしの時代だわ」
少し元気になった。
関大に来た甲斐がある。
「恋って、すごいわ」
世間は高齢化社会で、
老人音楽の時代。
老人焼きそばに
老人パン。
わたしは立ち止まり、
首を傾げる。
まだ四十だし、
「老女は嫌だわ」
老女って言葉が嫌だった。
3
お尻を触るって言葉が
日本一きれいな言葉、
って断言した早稲田出身の
「エッチな詩人がいたっけ」
エッチな川は
どこにだって流れている。
ドレミファ、
って流れる川。
ソラシド、
って続く川。
4
どういう時に年を取ったと思うか。
駅の階段を上っていて、
途中で休憩する時。
そんなに向きにならなくて
いいのにと思う時。
*
自分らしさや個性が
「大流行」
わたしの時にはなかった現象。
でも、これって、
可能性を規定する面もある。
「これが自分なんだから」
と制限してしまう。
自分で自分の羽をもぐ。
*
こういうことを考えることこそ、
年を取ったなぁと思う時。
5
父母にも青春があったのよね。
今は年老いてるけど、
何かに打ち込んだり、
恋をしたり、
輝いていた時があったのよ。
それって不思議。
父母は初めから、
父母だった気がする。
一足飛びに父母。
わたしには
「お母さん」
と呼んでくれる子供もいない。
愚図る子供に
苛立つ楽しみもない。
本当に愚図られたら、
「嫌だけど」
父母の若い時の写真を
わたしは思い出す。
友達になれただろうかと
思ってしまう。
6
中学高校時代、
父に逆らったり、
母を突き飛ばしたり、
思い出しては
わたしは自分が情けなくなる。
母が宗教に走ったのも
わたしのせい。
子供だったなぁと思ってしまう。
今だって、
経済的な自立はどうにかできても、
精神的な自立がまだまだ
できていなかった。
信頼や責任、
身に付けなきゃいけないことは
山ほどある。
「いつまでも
子供気分じゃいられないわ」
作品名:料理に恋して/カレー編 作家名:紺や熊の