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料理に恋して/カレー編

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         13

 手をふりふり、
 とことこ走ってる、
 可愛い女の子。

 うちは真似てみる。

 真似しなくても
 それに近い。

 手をふりふり。


         14

 ついつい、
 口が半開きになる。

 うちは意識して、閉める。

 閉めすぎて、
 息が苦しい。

 ほっぺが膨らむ。
 次の瞬間、えずいてしまう。

 中から、
 ちっちゃな、
 うちが飛び出ては

 テーブルの上を
 四角となってコロコロ。

「半」


         15

 熊さんの実家もお寺だと知って、
 アヤネと盛り上がる。

「悪人正機説。
 善人より悪人の方が
 救われるってことで、
 問題になって」
「どうして?」
「自力を謳う禅宗と
 他力を標榜する浄土真宗の
 違いってあるやん」

「僕んちの寺は結構、開放的で
 葬式やお墓のイメージから
 脱却したいって父の考えから、
 地域の文化センターみたいになってるし、
 お見合いツアーまで始めた」
「面白いじゃない」

「僕も三年でそろそろ
 就職活動を始める時期」
「フリーターみたいに、
 正社員のルートを外れると、
 将来が怖いのは最近、
 やっと明白になったし」
「悲惨か天国か、賭けみたいな人生」
「ほとんどは悲惨。
 東京の大学で、卒業生の二十八才が
 逆恨みして恩師をメッタ刺し」
「仕事を転々としては一層、
 落ちて行ったみたいだし」
「転落人生、他人事じゃないわ」

「就職するのも怖いけど、
 しないのはもっと怖いわ」
「挟み撃ちだな。日本生まれで、
 日本育ちの新たな難民が次々と
 大量生産されてるって感じかな」
「お寺を継がないの?」
「不況ってこともあって、
 ワークシェアリングで
 新たに二人を雇おうって」
「人に助言するだけじゃなく、
 自らするのがすごい」

 だったら、
 加奈子は僧侶の奥さん?
 って目で、うちはチラ見。
 イメージが湧かない。

「で、選考基準が問題」
 アヤネは分かったのか、
 笑顔になる。
「僧侶に相応しいかどうか」
「そう。そういう選び方自体が
 問い直されて」
「不況で不幸な人から、
 順番に選ぶとか?」
「今までも父が解雇した例はあって、
 ケンカをしたとか、
 お布施をちょろまかしたとか、
 お盆に休みたがったとか」
 アヤネが笑う。

 加奈子は気に入らない様子。
 うちはひやひやする。

 熊さんは汗を拭った。
「世間的なというか、
 会社的な価値基準で選べは
 協調性のある人とか、
 積極性とか、誠実な人柄に
 なるんだけど。
 悪人正機説があって」
 アヤネの反応がいい。
「つまり、どうしようもない人から
 順に選ぶのが本筋」
「当り」
 話が通じ易く、熊さんが
 体を揺すって喜んだ。

         *

 うちはひやひや。
 とうとう、加奈子が割って入る。
「でも、ヤンキー先生とか、
 生徒に何度も裏切られては
 受け入れてるわ。
 殺人犯とか、泥棒とか、
 そこまでいかなくても、
 一番どうしようもない人を雇って、
 素敵な人に育ててこそ、
 お坊さんの価値があるんじゃ?」
 言ってから、加奈子は
 失言なのに気付く。
 熊さんのお父さんを
 擁護してるどころか、
 窮地に追いやっていた。

 熊さんは平気だった。
「それが醍醐味。
 世間的なモノサシで、選ぶより」
 熊さんは続けた。
「テレビ受けするために
 カラオケで歌わせ、
 お経のためのリズム感を
 チェックするなんてより、
 音痴の人こそ選ばれなきゃ」
「それいい」
 アヤネが素直に感心していた。


         16

 大学通りのカラオケ店に
 行くことになる。

 お経ソングで盛り上がる。

         *

 アヤネがぽつり。
「加奈子って結構、男性を
 見る目があるのね」
「当たり前じゃん」
 そういいつつも、
 警戒する顔の加奈子。

「論語読みの論語知らず、
 頭でっかち、
 じゃないところがいいわ」
「で?」
「参戦していい?」
 アヤネの顔面に
 エジプト仕込みの
 張り扇が飛んでいた。

         *

 その直後、個室のドアが開く。
「いらっしゃいませー」
 うちは自分らの店だと勘違い。

 体全体にボリュームと迫力のある、
 かなりむっちり系の
 エッチっぽい女の子が
 走ってきたらしく、
 はあはあと息を切らしていた。

 そして、熊さんに向かって、
「ひどいー」
 はあはあ。
「誘拐されたって聞いて、
 心配したー」
 はあはあ。

 熊さんがスプーンですくった、
 カラオケ店のカレーを見せる。
「一緒にどう? 薫ちゃん」
「陰謀よー。この女ら、
 おいしいものを食べさせ、
 関大生を太らせる計画よー」
 うちらは睨みつけられる。
「メタボ大学にするつもりよーッ」

「さすが、お目が高い。
 四年計画です」
 加奈子がしらっと言う。
 そして、指を差す。

 う、うちは首謀者に
 ま、祭り上げられていた!


         17

「豊満の化身だわぁ」
 と薫ちゃんのボリューム感を
 うっとりと思い出す。

 お風呂にたっぷり、
 二時間以上、入る。

 後は余生。

 週一で必ず、銭湯に行く。

 後は余生。

 って気分になる。

         *

 うちは体重計に愛想笑いし、
 手をひらひら振る。

 たまには
 番台に座らせてもらう。