小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

料理に恋して/カレー編

INDEX|23ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

         7

 池で小学生の子が二人、
 手製の竿で釣りをしている。
 見かけたことがある。
 たぶん、近所にある、
 児童養護施設の子供。

 竹箒から一本抜いて、
 それに糸を付けただけみたい。

 うちはこの間見た、
 緑色の小亀を探す。

 幼い女の子を連れた、
 若いお母さんが
 池の鯉や亀にエサをやる。

 すると、ハトが群れを成して
 飛んでくる。

 幼い女の子がちぢって
 泣き出した。
「こわい〜」

 お母さんは別の場所に行って、
 エサをまく。
 ハトはそっちに引き付けられる。

 女の子は今度は
 一人にされたのが不安で
「ママ〜、こっちッ」

 お母さんが戻る。
 瞬く間に食べ尽くした、
 何十羽のハトも
 一緒に移動する。

 女の子が顔面蒼白。
 恐怖のあまり、
 次の瞬間、白いハトになる。


         8

 池に架かった橋の上に、
 うちはしゃがみ込む。

 あの小亀がいた。

 男の子一人が橋の下の小魚を狙う。
「ブルーギルや」
「そんなのいるの?」

 さっきの女の子がうちの横で
 しゃがんでは身を乗り出す。
「あそこ見て、小さい亀」
「わーッ」

「危ない。落ちないようにね」
 お母さんが娘の服を
 少し後ろに引っ張る。

 小魚がエサに食いつく。
 次の瞬間、釣り上げられていた。
「ブルーギル?」
「これはモロコ」
「よく知ってるわね」
 うちは感心する。

「ケイちゃんもやりたい〜」
 女の子がお母さんを見て、
 やる気満々でちぢる。
「竿ないから、また今度ね。
 その代わり、アイスクリームを
 食べに行きましょう」

 うちはお姉さんになった気分で、
 男の子から、
「ちょっと貸してね」
 と口調は優しく、
 短い竿を半ば、分捕る。


         9

「橋の下のはアホばっかや。
 すぐ食い付き、釣れる」
 男の子はそう言って、
 連れの太った男の子を
 呼びに行っていた。
 ケイちゃんも嬉しそうに
 小魚にエサを突付かせていた。

 そんなことを思い出しながら、
 うちは加奈子を横目で見る。

「何よ」
「え?」
「あたしのこと見てたじゃない」
「何も」


         10

 笑顔だけ置き去りに、
 うちは自分の世界に入る。

 目に映る風景が遠退く。
 耳に聞こえる音が
 薄くスライスされる。

 体がかすかに浮く。
 爪先で歩く感じになる。

 店を後にする。

 日を浴びると、
 余計、体がふわふわする。

「どこかに飛んでいきたい」

 風船キャラだから、
 時々、本当に浮かぶ。

 天井に頭を
 ゴンッってことも、
 しばしば。

 ゴンを避けて、
 店から逃げる。


         11

 地面から爪先さえも離れ、
 浮かび上がりそうになった瞬間、
「中浜も男を作りなさい」

 上から目線で、加奈子が言う。
「バカな男たちって結構、
 中浜みたいなのが好きなのよねぇ」

「うちに同意を求めてる?」
「当然」

「同意書にサインしなさい」
「うん、するぅ」

「まったく、あんたって子は」
「糠に釘」

「自分で言うな」
「だって、中学生の時、
 よく言われたもん」

 着地成功。


         12

 中学の時、
 うちは猫背だった。

 猫の真似をしてたら、
 一週間、猫背だった。

 その代わり、
 猫の気持ちが分かった。

「猫って、本当は
 犬が好きなんだって」

 猫背の犬だって、
 ちゃんと
 あいさつをする。
「ちわーすッ」