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料理に恋して/カレー編

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        A1

 うちは加奈子に料理される。

 三枚に下ろされ、
 後は細切れ。

 軽くソテーされ、
 レタスと一緒に和えられる。

 ドレッシングはわさび味。

 お皿に載ったうちに
 大きな口が近付いてくる。

「うちはわんこのエサかッー」

 叫んでも
 夢が覚めない。

 うちはうーうー、
 うーうー、うなされる。


         2

「ね、浪人しない?」
「え! 振られたの?」
「い、今、嬉しそうな顔した!」
「してない、してない」
 うちは慌てて首を振る。
「いいや、した」

 あまりにしつこいので、
 うちはしたことにする。
「しました、しましたぁ」
「やっぱ」

「言っとくけど、
 振られてはないのよ。
 第一ラウンドは劣勢ってだけ」
「はい」

 うちは裏メニューの
 焼肉定食を加奈子に出す。
「ポン酢で食べて」
「おうよ」
 と男言葉になる加奈子。

         *

「中浜はあたしの誇りよ」
 とマジで言われてしまう。

 きょとんとしたうちは
「どうして?」
「ずっと、昔のこと」

 加奈子はそれ以上は言わず、
 うちの胸倉をつかみ、
 シャツを引っ張り、
 中のおっぱいを覗き見る。

「おうおう結構、育ってるわ」


         3

 寛大カレー。

 寛大なカレー。

 寛大になりたいカレー。

 寛大に扱われたいカレー。

 うちの作りたいのが
 分からなくなる。

 白旗を上げてみる。

 ちょっとお子様ランチ風。


         4

 うちは音階の上を歩く。

 歩いては奏でる道。

 うちはドミソの和音を探す。

 幸せの音階。

 股裂き地獄。


         5

 ハトが主役で、
 人間が脇役、

 の世界に突入。

 うちはハトに、
 エサをねだってる。
「ねえねえ」


         6

「中浜に好きな顔があるのと同じで、
 好きな雰囲気ってあるでしょ」
 と加奈子はうちに憤慨していた。

 うちは何も言ってないのに、
 熊さんのことを勝手に
 擁護しては突っ掛かってくる。

 うちは恐る恐るになる。
「でも、意外。もっとイケメンで
 背もすらっとして、
 切れ者みたいな人が好みな気がして」
「今の項目にすべて
 当てはまってると思いますけど」
 うちは目が点になる。
「あ、はい」

 敬語になるほど、
 加奈子は怒っていた。

        *

 加奈子によって、
 〈タオのぷーさん〉になった熊さん。

「彼の好きな食べ物を
 聞いてきて」
「聞いて、どうするの」
 うちはふわふわ系から、
 ぬるぬる系に変わる。

「ふわふわしてなさい」
「そう?」
 恨みがましいうちに、
 加奈子のため息。
「好きな食べ物だけは
 美味く作れるようになっとかなきゃ」

 うちはお詫びの印として、
 使いっ走りとなる。

 横で聞いていたアヤネが
 カレーの味見をしながら一言。
「聞きに行った中浜が
 惚れられるってパターンは
 漫画によくあるわよ」

 加奈子は考えた末、
「やっぱ、いい」

         *

 太陽がまるで誰かに、
 調理されてるように
 真っ赤でジュージューしてる。

「変なところでプライド使うのよねぇ。
 肝心のところで使わないのに」
 悪意なく、さらりとアヤネ。

 ジュージュー。

 実家がお寺で、僧侶の資格まで
 持ってるとはとても見えない。
 木魚のポクポクが
 音楽の原体験と言っていた。

「ポクポク」
 うちは塩を掛けられた、
 なめくじとなる。

 溶けていく快感。

「ぺちゃり」
 とエールを送ってくれたのは
 休講になったという、
 夜間部の山田さん。

 ヤカン部の方が断然いいのに。

 ぺちゃり。