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料理に恋して/カレー編

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         7

 欲しいのは救いの手だった。
 棚からぼた餅だった。
 果報は寝て待てだった。

 わたしは頑張れない。
 テレフォンクラブのさくらも
 テレマーケティングも
 もうしたくなかった。

「甘ったれて見えるでしょうね」
 そこまで落ちたことのない人には
 そう見えるでしょうね。

 わたしは誰もいない、
 NGOの部室で、
 エジプトの貧しい女の子に
 手紙の下書きを書く。

「その内、日本に招待するからね」
 と書いてから、
 安易な希望を与えてる気がして、
 消しゴムで消す。

 自分の人生も消せたり、
 書き換えれたらいいのに――。

         *

 本当に女の子のことを
 考えてるのかなと思う。

 無理をしたらいけない、
 続かないのは知っていた。

 無職の今だって、
 一ヶ月、一万なら、
 余裕で寄付できた。

 けど、しない。
 洋服や食べ物に
 お金を掛けなかったら、
 まだまだ、できた。

 けど、しない。

 しないわたしが
 誰かの救いを求めている、
 誰かの救いを待っている。

 もし、この苦境から
 わたしを救ってくれたら、
「毎月、二万する」


         8

 数ヶ月はしても
 半年はしない気がする。

 自分勝手で、
 都合のいい話なのくらい、
 分かる年齢になっていた。

 困った時だけ、
 神社仏閣に
 お願いに行くのと五十歩百歩。

 寛大な神仏にすがり、
 甘えるようなもの。

 わたしは洗濯機に
 頭を突っ込み、
 髪を洗いたくなる。

 ねじられて行く自分。


         9

 わたしは学食の端っこにある、
 カフェの椅子に座る。

 強者の論理が弱者の論理を
 押し潰す。

 わたしだって、
 今まで人を励ましたことはある。
 無責任だった気がする。

 ここまで自分が落ち込むなんて、
 夢にも思わなかった。

 頑張り屋だと思っていた。
 加えて、楽観的な強さが
 あると思っていた。

 過去に何回かあった不況も
 ダンスするようにかわし、
 飄々とやり過ごしてきた。

 でも、今回はこたえた。
「きっと年齢のせい」

 アラフォーど真ん中。

「こんなに自分って、
 寂しがり屋だった?」
 思いも寄らないこと。

 わたしは目尻のしわに
 声を上げて泣きたくなる。


         10

「ああ、この子らって、
 生き生きしてるなぁ」
 わたしにもあったのになぁ。

 やっかむか、
 もう一踏ん張りするか、
 の分かれ道。

 そういえば、新入社員で
 初出勤の時、満員電車の中で
 パンツスーツの脇近くを
 ナイフか何かで十?近く
 切られたことを思い出す。

 今のわたしみたいな人が
「やった気がする」

 ナイフで切られるほど、
 他人からは輝いて見え、
 羨まれたあの頃――。


         11

「頑張って」
 と励まされると、
「頑張ってるって」
 と涙ながらに、
 言い返したくなる。

 生きてるだけで、
 今は十分に頑張っていた。

 それ以上、
 どう頑張ればいいの。

 わたしは生きている。

 とりあえず生きている。
 どうにか生きている。

 わたしは頑張ってる。
 わたしは生きている。

「それだけじゃ、
 全然、足りない?」


         12

 あのカレー屋さんって、
 よく燃える気がする。

 燃やして欲しそうな気がする。

「もう少しだけ頑張ってみようかな」

 カバンから、ナイフを取り出す。

 石垣りんの詩集は
 わたしにとってのナイフだった。

 ぺらぺらとめくっては
 その悪意に浸る。

         *

 カレー屋さんの
 あの背の高い女の子って、
 ピアノをやってるのは明らか。
「匂いで分かるわ」

「わたしのレコード持ってたりして」
 そんなことあり得ないか。

 尋ねてみようかしら。
「BGMにリクエストして」

 賭けだった。
 人生の分かれ目。
 あの子次第にする。
 あの子のせいにする。