小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

料理に恋して/カレー編

INDEX|17ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

        B1

 石垣りんの詩集を
 軽んじていた偽悪的な彼。
「バカにはしてなかったけど」

 わたしは古い文庫本を取り出す。
「軽んじるどころか、
 今の子らは石垣りんなんて、
 知らないでしょうね」

 カバンの中に
 ナイフを忍ばせた気分で、
 キャンパスを歩く。

         *

 関大料理学部、
 なんて大げさな看板。

 ただのカレー屋に入るのに、
 どうしてこんなに
 勇気がいるのかしら。

「ああ、いい匂い」


         2

 友達関係で悩むなんて、
 バカみたいだった。

 社会に出てからの
 気を遣う人間関係とは
「違っていて欲しい」

 わたしは目を留める。
「ん?」

 小亀だった。
 それも甲羅の直径が三?。

 辺りを見回し、
 わたしは急にしゃがんでは
 ケータイでカシャ。

 小亀が手足や首までも
 引っ込めている。

 わたしは指先でつんつん。
「♪角出せ、首出せ、頭出せ」

 出さない。
 わたしって、バカにされてる?

 池はかなり離れていた。
「どうして、こんなとこまで」

         *

 小亀を摘み上げては
 わたしは池に向かう。

 柵のところから、
 投げ入れようとした途端、
 ポロッと砂地に落としてしまう。

 金の斧、銀の斧の話を思い出す。
 わたしは柵の下を潜り抜け、
 小亀を拾う。

 そのまま、池に投げ入れる。

 ちゃぼっと沈んでいく。


         3

 再び、柵を潜って砂だらけ。
 服に付いた砂を手で払う。

「♪助けた亀に連れられて、
 龍宮城に行ってみれば、」

 幸運が巡ってくる予感に
 わたしは打ち震える。

 振り返っては池を見て、
 涙が膨れる。

「泳げないなんてないわよね」
 亀が泳げたかどうか、
 自信がない。

「もしかして、水死させた?」
 泳げない種類の山の亀とか?
 まだ、幼い子供だった?

         *

 わたしは柵に取って返していた。
 姿は見当たらない。
「波紋すらない」

 祟られるかも!
 わたしはへなへなと
 その場に崩れる。


         4

 最悪に追い討ちを
 掛けられる予感に打ち震える。

「これ以上の最悪って
 どこにあるの?」

 あるような気がする。
 わたしはびくびくしながら、
 関大のキャンパスを歩く。

 舞い降りる小鳥に
 ビクッとする。
 すべてが敵に思える。
 恨みの方向が定まらず、
 右に左に振れる。

 わたしは悲鳴の塊りとなる。
 ちょっと触れられるだけで、
 爆発してしまう。


         5

 学生の頃から、四十まで
 一足飛びで老けた気がする。

 二十年前なんて、
「この間の気がするわ」

 玉手箱を開けた、
 記憶なんてないのに――。


         6

「開けたら、ちらし寿司か
 天丼にして」
 うううん、カツ丼かパスタがいい。
 うううん、
「やっぱり、カレーがいい」

 NGOの看板を掲げる、
 部室のドアを押し開ける。
 中には誰もいないのに、
 テレビは点けっ放し。

 どん底から這い上がろうと
 頑張ってる人を放映してる。

 わたしにとって、他人事だった。

 苦境からの脱出を目指す、
 密着ドキュメント。

 今のわたしにとって、
 オリンピック級の
 選手みたいなもの。

 自分には到底、無理だった。
 あれを見て、
 頑張ろうって思う人より
 惨めになる人の方が
 断然、多い気がする。