小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

料理に恋して/カレー編

INDEX|16ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

         20

 うちが言えない分、
 音大生のアヤネが言ってくれる。
「一浪するって話はいずこへ?」
 加奈子は平気だった。
「友達できたら、学生生活って、
 全然、違うって。
 あんたらと知り合ったことが
 あたしの最大の不幸ね」

「素直じゃなーい」
 に加奈子は喜び、
「素直じゃないのが可愛い」
 に渋面を作る。
 一人がフォロー。
「きっと、あえて苦言を呈する、
 嫌われ役を買って出てるのよ」
「それって、フォローになってない」
「そんないいもんじゃないって。
 元々の性格よねぇ、加奈子」

 不服そうに鼻を鳴らす加奈子。
「あたしって、表裏ないから」
「加奈子さんの場合、
 表を作った方がいいって」
「露悪的ぃー」
 みんなが笑う。
「欠点は見逃さなきゃ」
「うちも見逃してぇー」
 釣られて、加奈子が笑う。

 大笑いしない加奈子が大笑い。
 うちは手を叩く。

 笑顔が少しエジプト的。

 笑顔が結構、エンドレス。


         21

 動物園に
 住んでみたいと思った幼い頃。

 最近は
 百円ショップに住んでみたい。

 寝ても起きても
 百円ショップの中。

 食べ物から、
 台所用品まで
 すべてが揃ってる。

 まるで、小宇宙。


         22

 うちは洗濯機の中で、
 洗濯されてみたい。


         23

 新メニューのアイデアを出し合い、
 試作してる時が一番、大変で
 一番、楽しかった。

「次はどんなカレーにする?」
「定番になるような、
 気合いの入った渾身の一皿」
「渾身じゃないのがいい。
 もっと軽やかに」
「何かがないよさってあるしね」
「気合いの入ったのは重いし、
 暑苦しいってこと?」

 不穏な空気になる。
「軽やかじゃなく、薄っぺらいのよ」
「何よ、それ」
 椅子から立ち上がる音。
「みんな、言葉足らずになってる」
「あ、そうか」
「軽やかも薄っぺらいのも紙一重」
「じゃ、こっちも言い直しまーず。
 一見、渾身じゃなく、
 実は滅茶苦茶、渾身」

 議論は続き、カレーの
 真相探しの様相を呈してきた。

         *

「中浜って、子供みたいに
 手を打って、純真に喜ぶのよねぇ。
 誕生日にシンバルを贈るわ」
「はてな?」
「おもちゃのお猿に
 対抗できること、請け合い」
「ぶーッ」
「そこは、キーッでしょ」
 加奈子が閉店後も入り浸ってる時、
 体育会系料理部の
 女子マネージャーが現れた。

 緊張感が何人もの小人となって走る。


         24

 関西料理大会があるから、
「要するに人を貸してくれって話?」
 アヤネがまとめた。
 うちはやっと、そうなのかと理解。
 お尻を掻く。
「ボリボリ」

 アヤネは僧侶の免許まで持つ、
 ギャッップが楽しい音大生。
 女子マネージャーは続けた。
「夜食部門やご飯のお供部門は
 行けるんだけど、
 問題は今回から初お目見えの
 優しくなれる料理部門」
「はてな?」
「食べた後の第一声が
 おいしいってより、
 気持ちがホカホカしたり、
 安らぐ料理」
 マネージャーは続けた。
「決まってた子が急に尻込みして、
 発熱でダウン」
「で、あたしらに白羽の矢?」
 と学部生でもないのに、
 加奈子が前にしゃしゃり出る。

「料理対決なんてしないのが
 ここのよさ」
 口々に意見が上がった。
「どうして、体育会系の代わりに?」
「困った時だけ、
 寄ってくるなちゅうに」
「どげんせん?」
 おかしな方言になっていく。

 仮面の大阪弁が外れ、
 四国や九州の方言が
 店内を飛び交う。


         25

 決めるのは次の日に
 持ち越しになった。

「別に対戦じゃなくて、
 おいしいのを作ってこようで
 いいんじゃない?」
「ホッとする味、安らぐ味」
「それなら、
 山田さんがいいんじゃない?」

 で、すぐ決まり。
 カツ丼のカツを少なめにし、
 お豆腐たっぷりの丼は
 賄い飯で大評判で、
 店の定番メニューにもなっていた。

 うちらは沖縄の一人を
 アシスタントに
 山田さんを送り出す。
「バイバイ〜イ」

 ロバにまたがった、
 山田さんが遠ざかって行く。


         26

 ふわふわ浮かぶ風船に
 付いている紐は大切だった。

 風船キャラのうちは
 改めて、そう思う。

 なぜか、無性に
 ホットドッグが食べたくなる。

 なのに、自分で焼いて、
 たこ焼きを食べる。

         *

「アチアチッ」

 これがしたかった。

「アチアチッ」

 たこ焼きをふーふー。

 これがしたかった。

 自分をふーふー。


         27

 勝ち負けなんか、
 どうでもよかった。
 料理で人助けができるかどうか。

 色んな料理観の優先順位。
 おいしいかどうかは
 大事だけど、
 一つのモノサシに過ぎなかった。

 後、うちらがすることは
 帰って来た山田さんを
「お帰り」
 って迎えること。

 トマトのスープを出すこと。